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十四郎の恋愛白書 1

第12章 No.12


「マヨネーズは油分がすごいんですから、摂りすぎは太る元です」

そうに言いながらゆきはオレのトレーにある白米やおかずを取ると、山盛りのそれらをチョイチョイっと半分程に減らした。

「あぁ!ちょ、ゆき!」
「はい、これで充分です」

トレーに器を置き直すと、ニッコリ笑った。隊士達はオレとゆきのやり取りを呆然と見守る。

「うぅっ…」

打ちひしがれて席に着くと、前に近藤さんが座ってきた。

「トシ、エプロン姿似合うじゃないか」
「言わないでくれ。近藤さん」
「ほんと、割烹着姿の方が似合ってたのに、なんでやめちまったんですかぃ」

総悟が近藤さんの隣に座った。

「総悟、テメェ、写真のデータ消せよ」
「ありゃ、ゆきさんから聞いたんですかぃ」

3人で「いただきます」と手を合わせて食べ始める。なんだか揃えてしまうのは、武州にいた時の癖が抜けない。

「それにしても、ゆきさんがトシになってからすごく表情豊かになったよな」

近藤さんが味噌汁を啜りながら言った。

「そうですねぃ。あんなににこやかな土方さんは気持ち悪いでさぁ」

総悟もモグモグしながら同意する。

「うるせー」

オレは貴重なマヨネーズを少しずつ掬いながら、減らされたおかずをチマチマ食べる。
稽古の後で腹が減っていたが、成る程、ゆきの言う通りこの量で充分足りそうだ。
身体がゆきなのだ。胃も小さいもんな。

「だが、トシが笑ってると隊内の雰囲気もいいな」
「そうですかぃ?みんな土方さんの笑顔に怯えてるように見えやすが」

近藤さんと総悟が前回いつオレの笑顔を見たかという議論をしているのを尻目に、隊士達に配膳しているゆきを見た。
確かにオレは普段あんなにニコニコ笑わない。いや、滅多に笑わない。ほぼしかめ面だ。

近藤さんの言う通り、ゆきがオレの中に入ってから自分の色々な表情を見た。

真っ赤な顔、驚いた顔、戸惑った顔、不安気な顔、嬉しそうな顔…。

周囲が驚く以上に、オレはまだあんな人間らしい表情ができたのかと自分で驚いた。


隊士達はオレ(ゆき)の笑顔に青ざめながら配膳を受け取って行く。

食堂内は、いつに無く静かだった。

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