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十四郎の恋愛白書 1

第12章 No.12


続いてシャワーの水音。
ここは離れにある女中用の小さな風呂だ。隊士たちはここまで来ない。
オレは脱衣所の前でゆきを待つことにした。




ゆきは程なくして出てきた。紺色の浴衣をキチンと着ている。真っ赤な顔は逆上せただけではなさそうだ。
オレはふと意地悪をしたくなった。

「ゆき、どうだった?オレの身体は」

ニヤつきながら聞くとゆきはバッとタオルで顔を隠し、
「トシさんの意地悪!すごく格好良かったです!」
と早口で答えた。

「は?…格好良かっ…?」

一瞬ポカンとしたが、律儀に答えたゆきに思わず「ブファッ!」と笑い出してしまった。

「もう、どうして笑うんですか!トシさんが聞いたから答えたのに!」

赤い頬を膨らませる仕草が幼くて可愛い。

「クックック…!い、いや、悪ぃ。格好良かったんだ。そりゃ良かった」

やはりゆきはオレを笑わせる天才だ。
プイと横を向いて歩き始めるゆきの後を、まだ笑いが残ったまま追いかける。

あぁ、身体鍛えておいて良かった。






翌朝、事件が起こった。

いつものように道場へ朝練に向かった。しかし、そこで新たな事実が判明した。

ゆき、運動神経なさすぎ…。
しかも腕立て伏せ10回もできないってどういうこと?

触ってみた二の腕はぷにぷにしていた。

大変気持ちいいが、これではダメだ。
オレがゆきの身体にいてる間に鍛え直してやろうと心に決める。

そしてゆきが入ってるオレの身体もピンチだ。一か月の間全く稽古をしなければ、筋力が落ちる。元の身体に戻った途端に攘夷志士にバッサリ殺られるなんてゴメンだ。
これはゆきにも毎日稽古をしてもらわねば!
そんなことを考えながら朝食へと向かう。
部屋にゆきがいなかったから、先に行っている筈だ。

と、食堂前に人だかりが出来ているのが見えた。隊士達が食堂に入らずに、ドアの前でザワザワと中を覗いている。
その異様な雰囲気に、一番後ろの隊士に声をかけた。

「なんだ?何があった?」

しかし隊士はオレを見ると「ひぃ!」と声をあげ、ぴゅうと逃げて行った。更にそれに気付いた他の隊士達が、蜘蛛の子を蹴散らすように散っていく。

「どうしたんだ?」

唖然とするが、しかしすぐに理由はわかった。
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