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十四郎の恋愛白書 1

第11章 No.11


帰りに寄った定食屋では、オレたちの入れ替わりを見たおばちゃんが卒倒してしまった。

山崎を一度屯所に戻らせ、おばちゃんを二階に運ぶ。定食屋の二階が居住地になっていて、寝室らしき部屋に布団を敷いておばちゃんを寝かせた。

心配気に見守るゆきをそのままに、オレと万事屋は一階の店舗に戻った。


「とりあえず、今日は休業だな」

『都合のため本日休業致します』
意外と達筆な字を書いた万事屋が、書き終わった紙をピラリと持ち上げながら言った。

入り口のガラス戸を開けて紙を外に貼りに出た万事屋を見送り、オレは開店準備のされていない薄暗い店内で改めて自分の身体を見下ろした。
小さな手、細い腕、低い目線。
いつも腰に差している大太刀はゆきの身長では引きずる上にとてもじゃないが振り回せる重さじゃなかったので、屯所に置いてきた。

女という生き物はこんなに弱いものなのか。
握ってみた小さな拳に、はぁと息を吐く。

「多串くん、腕出してどしたの?」

いつも憎まれ口ばかりの万事屋が、ゆきの姿をしているからかなんとなく優しい。オレと同じくらいのガタイの筈なのに今日はやけに大きくがっしりと見える。

「いや、女の体って弱いんだなと思ってたんだ」

オレも素直に答えると、以前は一つ空けただけの席に座ると『もっと離れろ』とケンカになってた万事屋が、自然にオレの隣に座った。

「ま、女全部が弱ぇ訳じゃねえけどな。うちの大食い娘や新八んとこのゴリラ女とか、他にも色々バケモンみてぇな女はいるけどな」

オレが必死で作った力こぶをプニプニ人差し指で押しながら万事屋は言う。頭の中に怪力ゴリラ女やチァイナ娘、殺し屋の忍者や百華の女などが巡った。

「まぁ、ゆきは標準なんじゃねーの?それにあいつらみたいな百戦錬磨のバケモン女なら、オレもおまえもゆきに惚れてねーだろ」

そうだ。
オレはゆきの『普通』なところに惹かれた。
今まで掴めなかった暖かい幸せな日常を、当然のようにオレに与えてくれるゆき。
幼い頃から修羅場に身を置いてきた万事屋もきっと、ゆきのそんな当たり前の日常を与えてくれる懐の深さに安らぎを覚えたのだろう。

「ほんで、これからどうするんだよ」

テーブルに肘をつきながら万事屋が聞く。

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