第11章 No.11
「あの…私、定食屋とビルの清掃の仕事があって…。休めないので…」
そうか、ゆきは給料を実家に仕送りしている。
仕事を休めば仕送りの金額が減るか…。
「よし。なら、元に戻れるまで給料はオレが出す。だから仕事は両方共休め」
「えぇ⁉︎そ、そんな、悪いです!」
「いや、オレの姿で仕事に行ってもらっては困るからな。これはゆきを屯所内に閉じ込めてしまう迷惑料だと考えてくれ」
「で、でもっ、あの…その…」
ゆき尚も何か言いたげだ。
「その…、定食屋だけは休めないんです。女将さん1人だと大変なので…」
確かに…。おばちゃん、ゆきが働き始めてずいぶん楽になったと喜んでいたな。それにゆきはおばちゃんに助けてもらった恩義を感じている。
しかし、オレの姿のゆきを働かせるわけにはいかない。白い割烹着に三角巾をつけた自分がニコニコしている姿を思い浮かべるだけで、吐き気がする。
「なら、オレがその間手伝っておいてやんよ」
そう言ったのは万事屋だ。
「え、本当ですか⁉︎」
「あぁ。たまにゆきと一緒に手伝ってるから、段取りも分かるし、大丈夫だ」
ゆきの顔が一気に輝く。
「銀さん、ありがとう!」
「うぎゃ!」
ギュッと万事屋の手を握るゆき(見た目オレ)と青ざめる万事屋。
ゆき、寒気するからやめてください。
万事屋は冷や汗をかきながらやんわりゆきの手を離す。
「はは…、ゆきは気にしないで。これは多串くんからの万事屋への依頼ってことにするから。いいよな?多串くん」
どさくさ紛れにオレから金を巻き上げようとするのが見え見えだ。
何勝手なこと言ってるんだよ、この天パ!
だが、万事屋に格好いいトコ持っていかれるのは気に食わない。ゆきのためなら仕方ないと諦める。
「あぁ。依頼金はまた今度支払う」
了承するとゆきは目を潤ませてオレを見た。
「トシさん!ありがとうございます!」
深々と頭を下げるゆき。
いや、礼はいいから、オレの顔で目を潤ませたりしないで。
ホント、頼むから。