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十四郎の恋愛白書 1

第1章 No. 1


「そんなに美味しそうに食べて貰うと、嬉しくなっちゃいました」
「いや、実際、超美味ぇから」

オレがタバコに火をつけながら言うと、サッと灰皿が出てくる。
綺麗に洗われた銀色のそれを見て、よく気が付く女だと感心する。


「こんちは〜。もういける?」

時計が11時を指し、店内に客が入って来た。

「ゆきちゃん、オレ日替わり定食ね」
「あ、ゆきちゃん、オレ唐揚げ定食」
「ゆきちゃん、こっちも注文取ってー」

にわかに店内が騒がしくなり、ゆきにはあちらこちらから声が掛けられた。
古びた定食屋。必然的に男性客が多い。どうやらゆきは既にこの店の看板娘のようだ。客から掛けられる言葉に逐一ニコニコと笑顔で答え、客席の間をスイスイ移動して注文の品を運んだ。

カウンター席がほとんど埋まってきた頃、オレはタバコの火を消して立ち上がった。それに気付き、ゆきがレジに入る。
ゆきの気が自分に向いたことに、なぜか少し嬉しくなった。

「ごっそうさん。また来る」

小銭はあったが、敢えて札を一枚出して釣りをもらう。
ゆきは、釣りが溢れ落ちないように、両手でオレの手を包み込むように渡してきた。

「ありがとうございました。また、是非いらして下さいね」

そう言ってオレを真っ直ぐに見たゆきの目がくしゃりと弓形になる。
そんな姿に、オレは「どこにでもいるような女」というゆきに対する第一印象を、「可愛い、癒し系の女」に覆した。

ほんと、明日もよっぽどの事がない限り、神のマヨネーズに会いにくるから。



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