第1章 No. 1
オレはマヨネーズが関わると、少し常人とは違う感覚になるらしい。近藤さんや隊士達によく言われる。
女も、オレのマヨネーズに対する神格化に噴き出し、クスクス笑った。
「神の領域って…! うふふ。土方さんて面白い方なんですね」
ショックを受けて佇むオレ。ゆきと名乗ったこの女は、マヨネーズの神ではなかったのだ。
ゆきはカラカラと店の引き戸を開けると、呆けているオレに中に入るように促した。
「もし良ければ、店内でお待ちください」
いつものカウンター。でも今日は開店前のため、掃除の邪魔にならないように、隅っこに座る。
奥ではおばちゃんが定食の下準備をしているのか、店内にはいい匂いが充満していた。
「どうぞ」
「あ、すまねぇな」
ゆきはコトリと冷水の入ったコップをオレの前に置くと、仕事に戻る。
オレは水をグビリと飲み、目線はゆきを追った。
少し小柄な、普通の女だ。
黒髪を後ろで一纏めに結び、白い三角巾を付けている。白い割烹着と相俟って、清潔感が感じられた。
黒目がちな大きな瞳と、クルクルよく働く様子は小動物を思わせる。美人ではないが、可愛い、しかしどこにでもいそうな、そんな感じだ。
「あら、土方さん、いらっしゃい」
おばちゃんが奥から顔を出した。
「ゆきちゃん、それ終わったら、マヨネーズ作ってあげて。土方さん、それ食べに来たんでしょ?」
「あぁ、土方スペシャルで頼む」
オレが言うと、ゆきは「はーい」と元気よく答え、カウンター内に入る。
やがて、シャカシャカという泡立て器の音と共に、芳しいマヨネーズの香りが漂ってきた。
「はい、土方スペシャルお待たせしました」
「あぁ、悪ぃな」
トン、と目前に置かれた丼。それはこの二週間焦がれて止まなかったあの神のマヨネーズ!の土方スペシャルだ。
「いただきます」
パキリと箸を割って、一気に口に掻き込む。
美味い‼︎‼︎
やはりこれは、神の領域のマヨネーズだ‼︎
無心に食うオレ。その食べっぷりに、ゆきはカウンターの箸箱の補充をしていた手を止め、驚いた様子でこちらを見ていた。
「ごっそうさん」
迷いなく完食だ。
「あっ、お粗末様でした…」
ゆきはハッと我に返り、ニコリと笑う。