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十四郎の恋愛白書 1

第10章 No.10


オレの言葉も虚しく、総悟は振り上げた拳でゆきの頬を思い切り打った。





「どーもすみませんでした」

総悟の土下座。初めて見た。
めちゃレアだぞ?
あぁ、写真撮っときてぇ。

「もういいのよ、総悟くん。知らなかったんだから」

対して真っ赤に腫れた頬を氷で冷やしながら答えるオレ。いや、中身はゆきだ。

ゆきの姿をしたオレは、その隣に胡座を掻いて座っている。

「全く、いきなり殴るやつがあるか」

腕を組みながら言うと、総悟の隣に座る近藤さんがフォローした。

「まあまあトシ、おまえとゆきさんが1つの布団で寝てたら総悟が誤解するのは仕方ないじゃないか。まさか中身が入れ替わってるなんて思わないんだから」

そう。オレとゆきは病院から一度屯所に帰ってきて朝が来るのを待つことにしたのだが、お互い疲労から起きていられず、少しだけ、と寝ることにしたのだ。

布団が一組しかなかったので一緒に入ったのだが、お互いに自分の姿をした相手と寝るので、特に抵抗なく寝ていた。
しかし端から見れば男女が共に寝床に入っていたら、やましい事をしていたように考えても仕方ない。

総悟は珍しく朝の鍛錬に出たところ、姿が見えないオレを襲撃に来て、オレとゆきとが一緒に寝ているのを発見したようだ。

「しかし、本当に入れ替わってるんだなぁ」

鍛錬途中に呼び出された近藤さんが、オレとゆきを見ながらしみじみと言った。

そんな近藤さんにゆきは向き直り姿勢を正すと、またもや深々と頭を下げた。

「ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。私、井上ゆきと申します。この度はご迷惑をお掛けしまして…」

最後まで聞かず、近藤さんが勢い良くズザザッと後ずさった。

「ト、トシが、トシが、頭を下げたー‼︎」

その横で山崎は顔面蒼白にして、総悟は「ひぃ!」とか言ってる。

随分な反応に、すかさず文机の上にあった灰皿を投げ付けてやる。見事山崎の頭に命中し、コン!と気持ちいい音がした。

「てめぇら、いい加減にしやがれ!これ以上普段のオレの素行が疑われるような発言をするんじゃねぇ!」

見ろ、ゆきがオレを白い眼で見てるじゃねぇか!

オレは「ゴホン」と咳払いしてから座り直し、場を仕切り直す。
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