第10章 No.10
ゆきを深夜迎えに行くようになってから、お礼だと言って、2食分を持ち帰れるようにしてくれたのだ。
包みをぶら下げながら、鼻歌混じりに屯所までの道を行く。
「副長、お疲れ様です!」
敬礼する門番に片手を上げて応え、食堂の冷蔵庫に直行だ。ゆきのマヨネーズを保存するのだ。
厨房の作業台上に包みを置いて、逸る気持ちを抑えて結び目を解く。包みを開けると、タッパーの上にはいつものようにメモが乗っていた。
花柄が印刷されたメモ用紙に書かれたそれは『お仕事頑張って下さい』とか『熱中症に気をつけて下さい』とか『タバコの吸い過ぎに注意して下さい』とかオレを気遣うものが多い。
たまに『昨日子猫を見て、すごく可愛かったです』とか『スーパーで野菜が特売してて嬉しかったです』とか微笑ましい一言メモもあり、オレはいつもそのメモを楽しみにしていた。
今日は…
『今朝、机の角で足の小指をぶつけて、すごく痛かったです』
「ブフッ!」
なんじゃこりゃ!
オレは思わず噴き出した。
ゆきは一見地味に見えるが、実はユーモアのセンスはあるのかもしれない。鬼の副長と恐れられる自分の笑いのツボを突いてくるのだから。
「クックックッ…」
何度も読み返し、なかなか笑いが収まらない。
『副長専用』と書かれたマヨネーズ用の冷蔵庫に、震える手でゆきのタッパーを仕舞った。
夕食時。
ゆきのタッパーからマヨネーズを掬ってメシにかけるオレの前に、総悟が座った。
「土方さん。相変わらず犬のエサですかぃ」
「うるせー。そう思うなら、オレの前に座るな」
ほぼ毎回行われるやり取りだ。
しかし総悟は立ち去ることもなく、無言で夕食を口に運ぶ。
総悟は相変わらず、ゆきの休憩時間に合わせて定食屋に通っているようだ。しかも山崎の情報によると、最近はゆきも総悟と並んで賄いを食べているらしい。
進展している2人の仲に、正直焦る。
しかしそれは総悟も同じようで、オレのゆき特製マヨネーズをチラチラ見ていた。
お互い無言で食べ終わり席を立つ。
総悟は食堂を出て、オレは厨房に入るとゆきのタッパーを洗う。
始めこそ食堂のおばちゃんに驚かれたが、最近は暖かい目で見守ってくれているようだ。洗い終わると「はいよ」と布巾が差し出された。