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十四郎の恋愛白書 1

第10章 No.10


「いらっしゃいませ」

定食屋の引き戸を開けると、ゆきが笑顔で出迎えてくれる。
片手を軽く挙げて応え、カウンターの一席に座った。すぐに水が出される。

「トシさん、いつものでいいですか?」
「あぁ、頼む」

それだけの会話。
客で賑わう昼時。その中の客の1人としてオレは来店していた。以前の様に閉店前に行って一緒にメシを食うことはなくなった。

しばらくしてからゆき特製土方スペシャルが出される。
最近は周囲の客もオレの土方スペシャルを見て帰らなくなった。

ゆきは店内を飛び回って接客をし、オレは黙ってメシを食う。食い終わるとしばらくタバコを吸ってから勘定に立つ。ゆきもレジに入る。

「ごちそうさん」
「はい、ありがとうございました!」

オレは相変わらず札を出し、ゆきは両手でオレの手を包み込んむようにして釣りを返してくれる。
他の客となんら変わらない応対。

しかし、ここからが『特別』。

「はい、これいつもの。今日もお仕事頑張って下さいね!」

ゆきはニッコリと笑いながら、風呂敷に包まれた小包をオレに手渡した。

「おぅ。サンキュ」

それを受け取り、

「じゃあ、また今夜」
「はい、いってらっしゃい!」

そんなやり取りをして店を出る。
因みに「いってらっしゃい」の部分でいつも店内が少しざわつく。
これはオレがゆきにリクエストして言ってもらってる。
ゆきを狙ってる野郎共への牽制だ。
いや別にオレがゆきの彼氏って訳じゃねぇが、周囲にはまるで旦那に弁当を渡して「いってらっしゃい」してるみたいに見えるだろう。
この事を万事屋が知って地団駄踏んで悔しがっていた、と山崎からの情報だ。ザマァみろ。

「いってらっしゃい」発言をゆきははじめ恥ずかしがっていたが、今後のストーカー対策だと言うとしぶしぶ了承した。
今では普通に言ってくれる。調子に乗ってオレも「また今夜」と特別な関係に思えるような言葉を言っていた。
間違ってはいない。今夜もまた深夜の仕事を終えたゆきを迎えに行くのだ。

そして小包の中身はというと、ズバリ、ゆき特製マヨネーズだ。大きめのタッパーが二個。つまり夕食分と翌朝の朝食分だ。
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