第9章 No.9
オレはゆきの髪に頬を摺り寄せる。
「それとも、オレが迎えに来たら迷惑か…?」
「迷惑だなんてそんな…」
ゆきはオレの着流しの胸元をキュッと掴んだ。
腕にスッポリと収まるその華奢な身体に愛しさが込み上げる。
「なら迎えに来る。オレはおまえにふたりきりで会いたいんだ。手を繋いで歩きながら話したい。…いいか?」
ゆきはしばらくオレの腕の中で包まれていたが、やがてコクリと頷いた。
オレはふと笑うとゆきをもう一度強く抱き締めてから離した。
ゆきは首まで真っ赤で俯いていた。
「くくっ。茹でダコみてぇ」
「もう!トシさんのバカ!」
からかうと潤んだ目で睨んできたが、かわいいもんだ。
また手を握ると、ゆきの家まで引いて歩く。ゆきは可愛らしく頬を膨らませながらも素直に従った。
暗い夜道もゆきが隣にいるなら明るい気がした。
ほどなくして自宅に着いてしまった。
名残惜しく繋いだ手を離す。
「じゃあ、家ん中入ってちゃんとカギ閉めろ。それからオレは帰るから」
「はい。ありがとうございました」
玄関前で以前と同じやり取りをする。
ゆきは丁寧にお辞儀をすると、ふわりと笑った。
「トシさん、また明日」
「おぅ。また明日な」
オレも頬を緩めた。
「おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
玄関戸が閉まり、カチリ、と施錠の音が聞こえた。
すぐにカーテンの引かれた窓に明かりがつく。
それを見ながら、いつか同じ家に帰れたらいい、と思った。