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十四郎の恋愛白書 1

第9章 No.9


しかしゆきは立ち止まると、今度はバッと顔を上げてブンブン横に振った。

「迷惑なんかじゃないです!トシさんがいてくれて、ビックリして、すごく嬉しかったです!」

街灯に照らされたその顔は、真っ赤で。
オレはゆきの頭をくしゃりと撫でた。

“嬉しかった”、か。良かった。

「なぁゆき、聞いていいか?」

再びゆきの手を引いてゆっくり歩き出す。

「はい?」

ゆきもオレの歩調に合わせて歩く。

「なんで深夜の仕事なんてしてるんだ?」

山崎から聞いていたが、ゆきの口から聞かないとフェアじゃない気がした。

ゆきは少し黙ってから、

「私、実家に病気の母と、13歳の妹と10歳の弟がいるんです。武州の田舎じゃあ、ろくな仕事がなくて…。それで出稼ぎのために江戸に来たんです」

ゆきはオレの横を歩きながら、少し小さい声で話した。

「私、江戸に出てきたその日、ひったくりに遭ってしまって…。一文無しになり、困ってるところを、定食屋の女将さんに色々と助けていただきました。住む場所を探して保証人になってくれたり、生活必需品をわけてくださったり、当面のお金だと言って纏まったお金をくださったりしました」

ゆきを見ると当時を思い出してるのか、目が潤んでる。

「更に、定食屋で働かせていただき、本当に感謝しています。でも、定食屋だけのお給金では、私の生活費くらいしか稼げなくて…。それで、深夜の雑居ビルの清掃員を始めました。その分のお給金を実家に仕送りしているんです」

深夜の仕事だから、給料も良いのだろう。
やはり山崎の調べた通りだったが、ゆきの口から聞けて良かった。

「本当は水商売のお仕事も考えたんですが、田舎者の私には無理かなと思って、やめました」

そう言ってゆきはペロリと舌を出して少しおどけた。
その様子が幼くて、オレは頬を緩める。

「…ゆき、真選組で働かないか?」

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