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十四郎の恋愛白書 1

第9章 No.9


後ろに仰け反ったオレに、山崎は少し声を潜めて言った。

「定食屋のおばちゃん情報によると、ゆきさん、この1週間毎日、マヨネーズの材料を常に厨房に揃えているそうですよ。いつでもすぐに作れるように」

「 ‼︎ 」

「それに、ゆきさん、自分の賄いを営業時間中に食べなくなったみたいです。沖田隊長が帰ってから、閉店後に厨房で片付けの合間に食べるようになったそうですよ」

思わずオレは立ち上がった。
今すぐにでも定食屋に走りたい気分だった。

「あ、副長!今定食屋に行っても、沖田隊長と鉢合わせになり、また喧嘩になって出禁になるんじゃ…」
「うっ…」

山崎の言葉にグッと踏みとどまる。
オレが苦々しげに再び座ると、山崎はまた話し出した。

「ゆきさん、夜10時から夜中の2時まで、ビルの清掃員の仕事をしているようです」

そうだ。今まで忘れていたが、ゆきは夜中の清掃員の仕事も兼業している。何故だか聞いたことはないが…。
でもなんでそこまでおまえが知ってんの?

オレがジロリと睨むと、山崎は慌てて弁解した。

「ふ、副長と沖田隊長のお二人がご執心の女性がどんな人か気になって、ちょっと調べたんです!ごめんなさい!」

殴られるのではと、両手を顔の前に突き出して逃げ腰になる山崎。

「まぁいい。で、他にも何か分かってるのか?」

オレが手を出さなかったことに安堵し、山崎はもう一度座布団に座り直した。

「はい。実家が…」
「武州だろ」

遮って言うと、山崎は頷き胸ポケットから手帳を出すとペラペラとめくる。

「ハイ。須田村です。局長や副長たちの出身地とは少し離れた小さな集落みたいですね」
「あぁ。聞いた」

オレは再び胸ポケットからタバコを出して、一本口に咥えた。

「父親は十年前に事故で亡くなったようですね。大工だったため、仕事中の事故だそうです」
「 …… 」

タバコに火をつけ、深く吸い込む。

「それからは、母親がゆきさん達3人の子供を女手ひとつで育てたようですが、昨年、無理が祟って母親が病気になり、代わりにゆきさんが江戸に出稼ぎに出てきているようです」
「それで、実家の生活費や母親の治療費を稼ぐ為に、仕事を掛け持ちしてるってわけか」

白い煙を長く吐いた。
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