第7章 No. 7
オレはゆきの懐の深さに感激し、ゆきへの想いは益々強くなった。
やがてオレの土方スペシャルが出来上がり、ゆきも自分の賄いを持って出てきて、オレと総悟の間に座った。
合わせて「いただきます」をしたオレたちに、すかさず総悟が割って入る。
「ゆきさん、この後映画、何見に行きたいですか?」
総悟の“計算された無邪気な笑顔”に、ゆきはやはり母性本能を擽られるようで、慈愛に満ちた笑顔を向けた。
「ありがとう。じゃあ『愛の詩』にしてもいい?私、見てみたかったの」
「あ、それ今大ヒットしてるヤツですね。もちろんいいでさぁ。じゃあすぐに見れるように、ゆきさんが仕事終わるまでに、オレ、チケット買っておきやす。良い席を取ってきやすから!」
総悟はウキウキとはしゃぎ気味だ。
オレは土方スペシャルを掻き込みながら、耳だけはダンボにしていた。
総悟が女にドSにならないのは珍しい。まるでミツバに対するような態度だ。仔犬が一生懸命シッポを振っているような。
「じゃあ、4時に待ち合わせしよっか」
ゆきは総悟のそんな態度にクスクス笑いながらも、嬉しそうだ。
オレは次第にイライラしてきた。
「いえ、オレ、店まで迎えに来やすから!一緒に行きやしょう!」
二人のそんな会話を聞きながら、オレは味も分からず土方スペシャルを食べ終わると、タバコに火をつけた。