第6章 No.6
「ゆき、総悟はおまえがこの店で働いてるの知ってるのか?」
「え?いえ、お伝えしていません。ケガの手当てをしただけですしプライベートなことは何も…。名前は聞かれたので言いましたが」
ゆきは上品にモグモグ食べる。
よし!総悟は定食屋(ここ)を知らない!
「でも自宅で手当てしたので、自宅は知ってます」
チッ!総悟の野郎!オレだって家に上がったことねぇのに!
「じゃあ、万事屋はこの店にはよく来るのか?」
急に万事屋の話に変わってゆきはキョトンとする。
「坂田さんですか?ハイ。毎日来てくださいますよ」
万事屋ぁ〜‼︎ 下心見え見えなんだよ!
オレは自分を差し置いて万事屋を呪った。
「あちぃ‼︎」
「ト、トシさん⁉︎」
思わず右手のタバコを握り潰してしまった。
ゆきは慌てて厨房に入り、氷を数個ビニール袋に入れて持ってきた。
「これでしっかり冷やしましょう!」
そう言ってオレの手を取って患部に氷を当てくれる。
ピリピリとした火傷の痕がひんやりと冷やされ、心地よい。
ゆきの柔らかい手がオレの手を包み込んでいる。羞恥とゆきの手の感触で、オレは耳まで赤いのが自分でも分かった。
「トシさん?」
「あ、あぁ、すまねぇ」
またもやゆきの前で醜態を晒してしまった…。
落ち込むオレに、ゆきは楽しそうに笑った。
「うふふ。真っ赤になったトシさんて、かわいいですね」
か、かわいい⁉︎
そんなこと初めて言われた。
「でもどうして急にタバコを握り潰したりしたんです?」
「あ、いや…。その…」
ジッと黒目がちな瞳が真っ直ぐ見てくる。
「…っ、ヤキモチだっ!」
オレはゆきから視線を外してそっぽを向いた。
もう首まで赤いんじゃないだろうか。
「え、ヤキモチ?」
「あぁ!昨日言ったろ!オレはおまえのことが好きだって!だから、おまえが総悟や万事屋にちょっかい出されてるのが、その…気に入らねえ…」
言っている間に自分がとても小さい人間のような気がして、語尾が尻すぼみになった。
しかしゆきは目を真ん丸にすると、また「ぷっ」と噴き出した。
「トシさんて、ほんとかわいいですね」
どこが⁉︎ 今のオレに情けなさはあっても、かわいい要素は皆無じゃね⁉︎