第5章 No.5
ゆきはボッと顔を赤くすると、
「あの、あれは坂田さんが急に…!恋人の振りをするなら、キスくらいした方がいいからって…! ていうか、やだ!トシさん見てたんですか⁉︎」
万事屋、殺す‼︎
「じゃあ、万事屋とは本当に付き合ってないんだな?」
「だからそう言ってるじゃないですか‼︎」
ゆきはまだ真っ赤な頬をぷぅと膨らませて断言した。
そうか、良かった!
万事屋にゆきの唇を奪われたのは死ぬ程悔しいが、しかしこれでオレにもまだチャンスあるってことだよな?
心の中で密かにガッツポーズを取る。
だが、あの万事屋が何とも思っていない女にキスするとは思えねぇ。多分あいつもゆきのことを狙っているんだろう。
あんな無職野郎にゆきを取られるつもりは毛頭ねぇ。
ここは先手必勝か…?
「なら、誰にも遠慮せず手が繋げるってことだな」
オレはそう言って再びゆきの手を取って歩き出した。しかも恋人繋ぎだ。
「えっ、あの、トシさんっ?」
ゆきは再び頬を赤らめてオレを見上げる。
しかしオレはそれに気付かないフリをして歩いた。
ゆきも俯きながら黙ってオレについてきた。耳まで赤いのが可愛い。
「こっちでいいのか?」
「えっ、はい。次の角を右です」
キラキラ光るネオン街を抜け、民家が立ち並ぶ暗い道に入った。ところどころ街灯が黒い地面に白い丸を作っている。
「ゆき」
「はい?」
見上げるクリンとした瞳。オレも真っ直ぐに見つめ返した。
「オレはお前と付き合いたいと思っている」
「えっ…?」
ゆきはオレの言葉に驚いたのだろう。立ち止まった。
オレも止まり、ゆきに向き直る。
「好きだ。ゆき」
そう言ってゆきを引き寄せると、チュっと唇に触れるだけのキスをした。
「 ……⁉︎。えっ⁉︎ えぇ⁉︎ 何事⁉︎」
一瞬フリーズしてから、ゆきはオレからピョンと飛び離れた。顔はこれでもかってくらい真っ赤だ。
「ぷ、何事ってお前…!くくっ」
予想外の反応に笑いが漏れる。
つい万事屋に対抗してキスしちまったが、良かった。嫌がってはいないようだ。
ちょっとは脈アリってとこか?
ワタワタするゆきの頭をサラリと撫でる。