第5章 No.5
赤いパトカーランプがクルクル回る中、手錠を掛けられた攘夷志士たちが次々と輸送車に連行されて行く。最後の1人が乗車し輸送車が発車すると、あとは現場検証の隊が数隊残った。
「トシ、お疲れさん、ご苦労だったな!」
大きなヤマが無事成功し近藤さんもご機嫌で、怪我もなさそうだ。
「あぁ」
オレはそれだけ答えるとタバコに火をつけ周囲を見回した。深夜にもかかわらず辺りには野次馬の姿がかなり見受けられた。
やがて鑑識を残して隊士たちが撤収し始めると野次馬も散り始める。
オレはバラけていく人ゴミの向こうに、雑居ビルの入口から顔を覗かせるゆきを見付けた。
「近藤さん、先にパトカー乗って帰ってくれ。オレはちょっと野暮用だ」
「え、トシ⁉︎こんな時間にどんな用事が…⁉︎」
時刻は午前2時だ。
近藤さんの問いには答えず、オレは返り血の付いた上着とスカーフを脱ぐとパトカーの後部座席に放り込んでサイドミラーを見る。顔に返り血が飛んでいないことを確認してから、ゆきに向かって歩き出した。
オレが近づくとゆきは慌てて入口から出てきた。ベージュの作業着から薄桃色の着物に着替えていた。
「わりぃ。ずいぶん待たせちまったな」
「ううん!そんなことないです!それよりトシさん、ケガは?」
不安気に見上げる黒い瞳。
オレの身を案じてくれていたのかと思うと心が暖かくなった。
「大丈夫だ。ケガはねぇ。お前に怖い思いをさせてすまなかったな」
オレの無事を聞いてゆきはホッと息を吐いた。
そんな仕草に嬉しくなり、思わずゆきの手を取り歩き出す。
「行こう。送って行く」
「えっ、あのっ…」
突然手を握られてびっくりしたゆきが、戸惑ったようにこちらを見上げた。
「っ、! あ!悪ぃ。万事屋に怒られちまうな」
しまった。こいつは万事屋の野郎と付き合ってるんだった。
オレは慌てて手を離した。
しかしゆきはキョトンと目を開くと、
「えっ?万事屋さん、ですか? えっと、…それって坂田銀時さんのことですか?」
と不思議そうに首を傾げた。
あれ?意外に他人行儀な感じだな。
「あぁ。…って、ええ⁉︎ もしかして…付き合ってねぇのか?」