第23章 No.23
「ならゆきさんに早くプロポーズしなせぇ」
「言われなくても、明日するつもりだ」
「明日じゃダメでさぁ。今、してきてくだせぇ」
「はぁ⁉︎ 今って、ゆきは厨房で晩メシの準備してるだろ!」
総悟はオレの文机の一番上の引き出しを開けて、婚約指輪の小箱をオレに放り投げた。
だから、なんでそこにあるって知ってんの⁉︎
パシリと受け取ったオレを、総悟は再び刀を突き付けて脅す。
「あんたがゆきさんを妾にするつもりだっていう噂を鵜呑みにした隊士が何人か、ゆきさんに告白し始めてまさぁ」
「なんだと⁉︎」
「あんたにならまだしも、平隊士にゆきさんを取られたとあっちゃあ、一番対隊長、沖田総悟の名が廃りやす。あんたがこれ以上グスグスするなら、力ずくでゆきさんをオレのモノにしやすが、いいですかぃ?」
総悟の目は本気だった。
「バカ言うな!」
オレは総悟の刀をぐいと退けると、障子戸を開けた。
「今からゆきにプロポーズしてくる。ゆきは誰にも渡さねぇ!」
婚約指輪を握りしめ、廊下をズンズン歩く。隊士を見掛けないのは、ほとんどが食堂に行っているからだろう。
ゆきがオレの女だと知っていながら、手を出そうとする輩がいるとは!
総悟に焚き付けられたとは知らないオレは、勢いよく食堂のドアを開けると、テーブルを埋め尽くした隊士たちにお茶のおかわりを注いで回っているゆきを見付けた。
「ゆき!」
「トシさん、お疲れ様です」
ふわりと微笑むゆき。
あぁ、やっぱり癒される。
オレは大きなヤカンを持つゆきの所まで行くと、その場に片膝を付いた。
隊士達が、何事かとこちらを注目してくる。
「トシさん?」
小首を傾げるゆきの前に、捧げるように両手を差し出す。その手には、小箱から出された白いリングケースが乗っていた。
パカリとケースを開く。
「 ‼︎ 」
ゆきがハッと息を呑む。
「ゆき、オレと結婚してくれ」
しん、と静まった食堂に、オレの声がハッキリ響いた。