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十四郎の恋愛白書 1

第23章 No.23


「そうでしょうか…」

ゆきは尚も小さく言う。

しばらくの沈黙の後、おばちゃん達は深い溜息を吐いてからゆきに言った。

「とにかくゆきちゃん、後悔はしないようにしなさい」
「はい…」



完全に厨房に入るタイミングを逃したオレは、そのまますごすごと部屋に帰った。

ゆきがあんな風に考えていたとは知らなかった。まさか、妾だなんて。
しかし見合い話を知っていたのならそういう結論に至ったのは仕方ないことなのかもしれない。

オレが下手に少女漫画の影響を受けて、ロマンチックなシチュエーションでプロポーズをしようと時を待って行動を起こさなかったことがゆきを不安にさせていた。尚且つ今回の見合い話も出て来させたのだ。

オレは文机の一番上の引き出しを開け、5センチ角くらいの小さな白い小箱を出した。
婚約指輪だ。
蓋を開けると、白いベルベットのリングケースが入ってる。中にはプラチナ台の上に一粒のダイヤモンドが光り輝いている指輪が鎮座していた。シンプルなデザインだがそれが逆に気に入った。
ちょっと、いやかなり奮発した。ちゃんと給料3ヶ月分以上だ。

よし、もうシチュエーションがどうのと言ってる場合じゃない。明日、プロポーズしよう。


しかし、おばちゃんの情報伝達機能というのは、時に警察をも凌駕する。

夕方には、屯所内全域に『副長はゆきさんを妾にするつもりだ』と広まっていた。

そして今、オレは総悟に刀を突き付けられている。

「どういうことでさぁ」

ちょっと!刺さってる!刀の先が首にちょっと刺さってるから!

「総悟!待て!誤解だ!オレはゆきを妾になんかするつもりはねぇ!」

焦って言うオレに、総悟は益々殺気を漲らせる。

「あぁ? じゃあ、このままゆきさんを捨てるってことですかぃ?」

「バカ!そんなわけねぇだろ!結婚するんだよ!ちょ、死ぬから!とりあえず刀を下げろ!」

総悟は渋々刀を鞘に収めた。

「とにかく、ゆきを妾にするなんてただの噂だ。オレはゆきを妻に迎える。もう婚約指輪だって買ってあるんだ。っておまえ、結構切れてるじゃねぇか!」

切れた首に手拭いを充てると、結構な血が付いていた。
しかし総悟はそんなことはお構いなしだ。

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