第23章 No.23
しかしゆきは見合い話が破談になったことはまだ知らないのだろう。
そこへ別のおばちゃんの声が元気付けるように言う。
「でも、ゆきちゃんは副長さんのこと好きなんだろう?副長さんだって見るからにゆきちゃんに心底惚れてるじゃないか。自信持っていいんじゃないかい?」
しかしゆきは躊躇いがちに言う。
「私は…トシさんのこと、大好きです…。でもトシさんみたいな素敵な人が、私のことずっと好きでいてくれるはずないですよ…。だから私はお嫁さんになれなくても、トシさんのお傍にいられるだけで十分なんです」
「え? それって、妾でもいいってこと⁉︎」
め、妾だと?
おばちゃんの発言に驚くオレを他所に、ゆきは自信なさ気に言う。
「あの、私なんかじゃお妾さんにもなれないかも…。でも女中としてトシさんのお役に立てればそれでいいかなと…」
お、おいちょっと待て!
何言ってるんだよ‼︎ オレが好きなのは…!
「何言ってるんだい‼︎」
オレの代わりにおばちゃんの怒声が厨房に響く。
「ゆきちゃん、あんた、自分を卑下しすぎだよ! 副長さんに聞いてみたのかい⁉︎」
ゆきは慌てて返す。
「そ、そんなこと聞けませんよ! でも、やっぱり私とトシさんじゃ釣り合いませんし。私みたいな田舎者が側にいれば、トシさんが恥をかきます!」
そんなことねぇ!オレはおまえじゃないと…!
「…ゆきちゃん、結局、副長さんからは将来のことは何も言われてないってことだね?」
更に別のおばちゃんがゆきに強い口調で確認を取る。
無言のゆき。恐らく頷いていたのだろうことが、次のおばちゃんの呆れた声で分かった。
「そうかい。副長さんもとんだヘタレ男だねぇ。あんなに劇的な救出劇をしたんだ。その場でプロポーズくらいすりゃあいいものを」
余計なお世話だよ。オレはオレのタイミングでプロポーズしようと考えてんの!
もう指輪だって買ってるんだ!
「ゆきちゃん、私らがとやかく言うことじゃないけど、でも、副長さんを信じてみたらどうだい?」
「そうよ。副長さんは意外と誠実な人柄だから。きっと妾なんて考えてないわ」
“意外と”って何?
しかしオレをフォローしてくれるおばちゃん達には感謝だ。