第23章 No.23
翌日、やっと見合いから解放されたオレは、ビジネスホテルで袴姿から隊服に着替え、夕方屯所に戻った。
結果的に上手く断ることが出来た。
アレコレ言わずに、正直に「結婚を考えている女がいる」と頭を下げたのだ。
しかし仲人は怒り出し相手方の女は泣き出し大変だったが、意外にも女の父親が場を取り持ってくれたのだ。
曰く、「鬼の副長が頭を下げるくらいなら、もうこちらの出る幕はない」とのことだった。
そして更に幕府の高官であるその父親は、“誠実だ”と言って何故かオレを気に入り、今後の真選組への援助を約束してくれた。
とっつぁんも「トシぃ、女がいるならいるって言えよ〜。おじさん、いらないお節介しちまったじゃねぇか〜」とか言いながら葉巻をプカプカふかしていた。
いやいや、あんた『おまえに拒否権はねぇ』とか言って、オレの話全く聞かなかったよね⁉︎
まぁ、そんなこんなで、オレはこの見合い話はゆきには知れることなく無事に済んだと思っていた。
見合いから数日後の昼下がり、ゆきにお茶を運んで来てくれるように告げようと、厨房まで行く。昨日本庁で松平のとっつぁんに駿河屋の栗羊羹を手土産にもらったのだ。ゆきと一緒に食べよう。
オレが厨房のドアを開けようとすると、少し開いていたドアの隙間から、おばちゃん達の声が聞こえた。
「ゆきちゃん、それで、副長さんとはいつ結婚するの?」
「 ‼︎ 」
け、結婚⁉︎
厨房でなんつー話をしてるんだよ!
驚いて引き戸にかけていた手を止める。するとすぐにゆきの声が聞こえた。
「そんな、結婚だなんて! 私達お付き合いしてまだ一年も経ってませんし、何より、私がトシさんのお嫁さんなんて務まりませんよ」
え⁉︎ な、なんで⁉︎
ゆきとは武州での事件の際、心が通じ合ったと思っていた。オレは、ゆきもオレとの結婚を考えてくれていると勝手に思い込んでいたのだ。
ゆきの声は更に続きオレは急いで耳を傾ける。
「トシさんにはもっと相応しい方がいらっしゃると思います。…天下の真選組副長に、こんな平凡な一般市民は…不釣り合いですから…」
ゆきの言葉は最後が尻すぼみに小さくなっていった。
「 ‼︎ 」
その言葉にゆきはオレの見合い話を知っていたんだと気付いた。