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十四郎の恋愛白書 1

第23章 No.23


一方、ゆきはそのまま住み込みの女中として働くことになった。

始めゆきは屯所を出て、また定食屋とビルの夜間清掃を続けようとしていた。母親達の生活費も稼ぐつもりだったようだ。
しかし、オレが引き留めた。
せっかく再びゆきを手に入れたのだ。もう離したくなかった。
それに、真選組の女中の方が、二つ合わせた給料よりも幾分か良い。

ゆきは定食屋のおばちゃんを随分気にしていたが、もう定食屋は新しく店員を雇っていた。オレが人脈を駆使してその店員を手配したということは、ゆきには内緒だ。







そして季節は流れ、春になった。

ある日、松平のとっつぁんがオレに見合い話を持って来た。

「トシよぉ、おまえもそろそろいい年なんだから、もう身を固めろや。という訳で、明日、見合いだからよろしく」

さらりと言って帰ろうとするとっつぁんを慌てて引き止める。

「いやいや、ちょっと待て! なんだよ急に!オレは見合いなんてしねぇ!」

パァン!

足元に風穴が空き、プスプスと燻った。

慌てて飛び退いたオレを横目に、とっつぁんは気取ったポーズでフゥと銃口の煙を吹く。

「もう決まってるんだよ。相手は幕府高官のお嬢様だ。この見合いにゃ真選組の将来がかかってるんだぞ」

『真選組の将来』。その言葉にグッと息を詰める。
サングラスから覗く目はオレの弱味を御見通しのようだ。

「午前11時に料亭吉兆の松の間に来い。おまえに拒否権はねぇんだよ」

そして手に持っていた白い大きな封筒から立派な台紙の冊子を出すと、ポンとテーブルの上に投げ置いた。

「これ、相手さんの写真。美人だぞぉ。相手さんはおまえにゾッコンらしいぞ、この色男ぉ」

グラサンのヤクザは一方的に約束を取り付けると「じゃあな。写真ちゃんと見とけよ」言ってと帰って行った。
机の上に無造作に投げ出された見合い写真。オレは苦々しい思いで金糸の刺繍が入った豪勢なそれを見遣る。

オレにはゆきがいる。ゆきだけだ。
こんな見合い写真、見たくもねぇ。

しかし『真選組の将来がかかってる』と言われると、無下に断ることもできない。

「あぁ、クソッ‼︎」

腹立ち紛れに黒塗りのテーブルをドン!と叩いた。

ゆきが部屋のすぐそばで佇んでいることに気が付いていなかった。


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