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十四郎の恋愛白書 1

第20章 No.20


事の真相は、やはり万事屋の予想通りの展開だった。

昨日の朝オレが帰ってから、ゆきの自宅に攘夷志士たちが押し掛けてきた。
攘夷志士たちの中にゆきの幼馴染の男がいて、江戸の町でオレとゆきが毎夜手を繋いで歩いているのを見かけたらしい。
そこで攘夷志士たちはその幼馴染の男を使って医者だのなんだのと嘘を言って、ゆきの家族を上手く監禁した。そしてゆきは人質になった母親と妹弟の写真を見せられ、オレを殺せと脅された。
オレのマヨネーズに混ぜろと毒薬の入った小瓶を渡され、志士たちの目前でマヨネーズを作るように強要されたそうだ。しかし聡明なゆきは志士たちの目を盗んでたまたま自宅にあった似た様な小瓶に油を入れ、すり替えてそれを投入した。

一言メモがなかったのは、志士たちに見張られていたからだったのか。

それからは万事屋に依頼してオレに別れを告げ、翌朝に木刀を買って、家族を助け出す為に武州へと戻ってきたのだ。
単身乗り込んだものの、多勢に無勢。しかも女一人だ。すぐに捻り上げられ、犯されそうになった。そこへオレたちが現れたのだ。

「私なんかの為にトシさんが命を落とすなんて、どうしても考えられなかったんです。私という存在が、トシさんの重荷になりたくなかったんです…」

ゆきは両手で顔を覆い、肩を震わせた。

「ゆき…」

オレはゆきの肩を抱こうと上げた手をピクリと止めた。ゆきの頬の痣が、もう彼女に関わってはいけない、と訴えているように見えたのだ。

これほどまでにオレの事を想ってくれていたゆき。しかしこのままゆきを抱き締めることは出来ない。もう2度とこんな思いをさせれない。

断腸の思いで手を下げようとした途端、白く細い手がオレの手を導き、ゆきの背中へと廻した。

「!」
「ゆきを抱き締めてやってくださいな」

ゆきに似た優しい声に見上げると、ゆきの母親が静かに微笑んでいた。

ゆきと同じ黒目がちな大きな瞳は、病気で衰えた身体で数日間の監禁を強いられたにもかかわらず、強い光を宿していた。

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