第20章 No.20
「こんな、怪我させられて…!オレなんかより、おまえの方が…!」
ポタポタと次々に零れる水滴に驚いたゆきは、慌ててオレの頬を撫でようとした。
オレはそっとその手を抑えると、足を正し手を付いて頭を下げた。
「ゆき、すまなかった!オレの所為でこんな危険な目に遭わせちまって…!」
「トシさん⁉︎ 」
ゆきが驚いて目を見開く。
「おまえだけじゃねぇ。おまえの大事な家族にまで…!」
「トシさん!やめて!やめてください!」
ゆきはオレの体を起こそうとしたが、頑として頭を上げなかった。そして更に膝をにじり動かせて、遠巻きに立つゆきの家族達へ向く。
「ゆきのご家族の皆さん、自分の所為でこんな危険な目に遭わせてしまい、誠に申し訳ありませんでした!」
床板に頭を擦り付けて詫びても、まだ足りない気がした。
汚れきった自分がゆきという無垢な存在に手を伸ばすなんて、愚かだったのだ。オレの浅はかさが彼女達をこれ程までに傷付けた。
「今後はゆきに一切関わり合わないように…!」
「っ、やめて‼︎‼︎」
ゆきが大声でオレの言葉を遮った。そして覆い被さるように抱き付いてきた。
「トシさん、もうやめて。やめてください…!」
「ゆき…」
顔を上げると、オレを見詰める黒曜石の瞳からはぽろぽろ涙が流れていた。
「トシさん、助けにきてくれて、ありがとうございます。本当に本当に嬉しかった…!」
「ゆき…」
首に抱き付いてくる優しいぬくもり。
しかしこの手をその背に回すことは出来ない。
「ゆき、オレは…」
「トシさん、今回のことは私が悪かったんです。私が一人で抱え込まず、トシさんにちゃんと相談してればこんなことには…!」
ゆきは小さな身体を震わせながら涙を流す。
「違う!おまえは悪くねぇ!オレが!オレの所為だ!」
ゆきの涙がオレの隊服に染み込んで行く。次々と作られる黒い染みは、まるでオレ自身を呪詛しているかのようだった。
「ゆきさん、今回の事件の事を話してくれやせんか?」
「…はい」
総悟から問われ、ゆきはオレから離れると乱れた裾を直して正座した。そしてポツリポツリと話し出した。