第20章 No.20
「土方さん、近藤さんに連絡付きやした。すぐに輸送船を飛ばしてくるそうです」
携帯を切って総悟が報告してくる。
「あぁ分かった。なら今のうちにこいつら縛り上げとけ。住職、縄はあるか?」
女子供の前、そして寺の中だということもあり、オレ達は浪士達を斬らずに、全て峰打ちにしていた。
住職はまたそれに感動しながら、小僧と共に縄を取りに行った。
「総悟、ここはおまえに任せる」
そういうとオレは平屋を出て行こうとした。
ゆきに会わせる顔がない。
いや、ゆきもオレの顔なんか見たくないはずだ。ここは万事屋と総悟に任せてオレは立ち去った方が賢明だ。
「おいおい多串くん、オレと総一郎くんにこの人数の野郎共に縄を掛けろっていうのか?おめーも手伝えコノヤロー」
万事屋がぶぅたれる。
そして総悟はギラリとオレを見て言った。
「また逃げるんですかぃ」
出口へと進んでいた足がピタリと止まる。
「また姉上の時みたいに逃げるのかって聞いてるんだよ!このヘタレ野郎ー‼︎」
ドカリ!
総悟の拳がオレの頬を打ち、オレは吹き飛んだ。
「トシさん‼︎」
「きゃっ!」
ゆきや子供たちの声が聞こえた。
床に叩きつけられ、口の中に血の味が広がる。
「総悟!テメェ‼︎」
グイと口元を拭うが、尚も掴みかかろうとする総悟にオレも臨戦態勢を取ろうとした。
しかしその時、ゆきが総悟の腕に飛び付いて抑えた。
「総悟くん、やめて!」
「っ、ゆきさん⁉︎」
「ゆき⁉︎」
総悟が驚いて振り上げた腕を止める。
まさか飛び出してくるとは思わず、オレも唖然とゆきを見た。
「総悟くん!お願い!やめて!」
ゆきは必死で総悟の腕にしがみ付く。
総悟はオレを睨み付けるとやがてゆっくりと腕を降ろした。
「トシさん、大丈夫ですか⁉︎」
ゆきは直ぐさま総悟から離れ、オレに駆け寄ってきた。膝を付いて、心配気に見てくる。
「…っ!」
その顔は腫れ、着物は乱れ、細い腕には男達の手形がくっきりと赤く残っていた。
なんで、こんなになってまでオレの心配なんか…!
「オレより、お、まえが、大丈夫じゃ、ねぇじゃねぇか…!」
オレは溢れる涙を止めることが出来なかった。