第20章 No.20
ゆきを抱き起こそうとするが、すぐに背後から殺気がくる。グン!、と振り向きざまに背後の男に一太刀浴びせ、ゆきを背に立ちはだかった。
「ゆき、遅くなってすまなかった」
「トシさん⁉︎ どうして⁉︎」
ゆきは乱れた着物を引き寄せ肌を隠す。
「話は後だ」
オレは再び切りかかってきた浪士の刀を受け流し、浪士の喉元を思い切り蹴り上げた。浪士は吹っ飛び、泡を吹いて動かなくなった。
見渡すと、万事屋も総悟も男達を伸し終わり、人質たちの縄を解いていた。
ゆきの母親であろう50歳位の女性、妹弟らしき子供、そしてこの寺の住職らしき老人や小僧もいた。皆やつれてはいたが怪我は無さそうだ。
「お姉ちゃん!」
妹弟がゆきに走り寄る。
ゆきは二人を思い切り抱きしめ、涙を流した。
「ゆき…!」
母親がそれに寄り添い、3人を抱き締める。
オレが少し離れてその様子を見守っていると、住職と小僧が礼を言ってきた。
「どこのどなたか存じませんが、助けてくださり本当にありがとうございました!」
「いや、オレは江戸の警察だ。当然の事をしたまでだ」
深々と頭を下げる住職達に警察手帳を見せながら言う。
「なんと!わざわざ江戸から真選組が来て下さったのですか!」
オレの手帳を見て住職は驚き、多いに感心したようだ。
「流石は真選組ですな!」
「……いや」
…そうじゃねぇ。全てはオレの所為だ。
まだ礼と賛辞を述べる住職から視線を外す。
オレがゆきに惚れたから、ゆきやゆきの家族、この寺の住職たちも巻き込まれたんだ。
“ゆきが死ぬかもしれない”、それは自分の死よりも怖かった。ここに来るまでの間、まるで暗黒に足元から引きずり込まれそうな恐怖で一杯だった。
床に散らばる男達を見遣る。
十数人はいるか。おそらくこいつらは攘夷志士の一派なんだろう。
今の自分なら、惚れた女を護っていけると思っていた。
……護れてねーじゃねぇか…!巻き込んで、危険な目に遭わせてるじゃねぇか!!
ギュッと拳を握り、己の愚かさを呪う。
もう、これ以上ゆきと関わり合うことはできねぇ…!!