第20章 No.20
パトカーのサイレンを鳴らし、交通規則を無視しまくって数時間。オレたちはゆきの生まれ故郷の須田村にいた。
村の殆どを田畑が占め、ところどころに民家がポツポツと建っている。昔ながらのその風景に、天人なんて見たこともない、攘夷戦争なんて掠りもしなかったのではないかと思わせるような村だ。
森の入り口にパトカーを停め、歩いて村に入る。
「ゆきさんは列車で江戸を発ってやす。オレたちとそう到着時間は変わらねえはずでさぁ」
総悟が辺りを見回しながら言う。
のどかな田園風景に黒服に帯刀したオレたちと銀髪に白い着流しの万事屋という3人組は、えらく浮いていた。
と、第一村人発見。
前方に農作業をする老婆を見付けた。
「おいばあさん、警察のモンだ。ちょっと聞きたいことがある」
「警察?警察がこの村に何の用だい?」
警察手帳を見せながら言うオレに、老婆は警戒心を露わにした。
「おいおい、多串くん、そんなに強面で言ったらおばあちゃんが怖がるでしょうに」
ゆきの命がかかってるんだ。切羽詰まっていて当然だろ。
しかし万事屋は「ちょっと銀さんに代わってみ」と、オレを押し退けた。
「おばあちゃん、オレたち、井上ゆきちゃんの江戸での友人なんだよ」
ゆきの名前を出すと、老婆の表情が少し緩んだ。
「ゆきちゃんの?」
「そうそう。それで彼女、お母さんが危篤だからって今日急に実家に帰っちゃってさ。オレたち心配で様子見に来たってわけ」
老婆はにこやかに言う万事屋の言葉を信じたようだ。田舎の人間は元来素直な人柄の人が多い。
「そうかいそうかい。遠いところわざわざ来てくれたんだねぇ」
老婆は一転してニコニコ笑いながら話し出した。
「数日前に江戸からお医者様がいらしてねぇ。雪絵さんはその方のところで世話になっているようだよ」
『雪絵』というのは、恐らくゆきの母親のことだろう。
「医者?」
オレが聞くと、老婆は「あらあら。よく見ると、随分とまあ男前なお侍さんだねぇ」と頬を赤らめた。
「そうだよ。ゆきちゃんの幼馴染の春彦っていう男の子がいて、数年前に江戸に出て行っちゃってたんだけどね、その子が腕のいい医者を連れて帰ってきてくれたんだとさ」
「「「その場所は⁉︎」」」