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十四郎の恋愛白書 1

第20章 No.20


項垂れるオレの前で万事屋は小指で鼻をほじる。

「なんかおまえのこと、凄く切ない表情で見送ってたんだよ。決して嫌いだからとか、気持ちが冷めたから別れるっていう感じじゃなかった」
「………え?」

ゆっくりと顔を上げる。

「どういう、事だ…?」

万事屋は一転して真面目な顔になると、声のトーンを落とした。

「気になったから今日開店前に定食屋に行ったんだよ。そしたらゆき、昨日限りで店を辞めてた」
「 な⁉︎ 」
「おばちゃんが言うには、田舎の母親が危篤らしくて、急に実家に帰らなくちゃならなくなったと言ってたそうだ。ビルの夜間清掃も同じくだ」

ビルの清掃はともかく、あれだけ恩義を感じていた定食屋を辞めるとは…!

「それでゆきの自宅に行ったら留守で。近所の人に聞いたら、朝に大きな荷物を持って出掛けたって」

流石に『万事屋』を名乗るだけのことはあるのだろう。野郎は少し調べたようだ。
食い入るように聞くオレに、野郎は少し間を置く。

「その近所の人が言うには、昨日の午前中にゆきの自宅にガラの悪い男達が訪ねて来ていたらしい」
「 ‼︎ 、オレが帰った後か!」
「特に騒ぎにはならなかったらしいが…。昨日のゆきの様子から見て怪我なんかはしてないと思う」

確かに、もし怪我していたら血の匂いや動きの不自然さですぐ分かるはずだ。

「それから、今朝新八がうちに来る途中に武具店で木刀を買っているゆきを見かけたそうだ」
「木刀を⁉︎」

オレが驚いて言った時、部屋の障子戸がドン!と吹き飛んだ。

「あぎゃ⁉︎」
「土方さん、邪魔しやすぜぃ」
「総悟!」

総悟が倒れた障子戸を踏み越えて部屋に入ってきた。

「ありゃ?万事屋の旦那じゃねぇですかぃ。来てたならそう言って下せぇ」

総悟は障子の下敷きになっている万事屋の頭をグリグリ踏み付けながら言った。

「いだだ!そ、総一郎くん!タンマタンマ!」
「総悟、オレと万事屋は今大事な話をしている。後にしろ」

いつもの襲撃かと思い総悟をあしらうが、総悟は万事屋から足を退けながらオレを睨み付けた。

「話は聞かせてもらいやした。土方さん、ウチの隊の隊士がさっき市中見廻りの途中、ゆきさんを見かけたそうですぜぃ」
「ゆきを⁉︎」
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