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十四郎の恋愛白書 1

第20章 No.20


シャワーを浴び、一睡もしないままたまっている書類仕事に取り掛かる。

昼近くになって隊士の一人が訪ねてきた。

「副長、お客様です」
「客?誰だ?」

筆を置き立ち上がろうとした時、スパーンと障子戸が勢い良く開かれた。

「多串くーん、あーそーぼー」

気怠そうに片手を懐に入れ銀色の頭をボリボリ掻きながら現れたのは、今一番会いたくない野郎だった。

「テメェ!」

瞬間で頭に血が上り、刀を抜き野郎の眉間に突き付けた。

「おおっと」

わざとらしく避けた万事屋はヘラヘラと笑う。

「なになに?ここのチンピラ警察さんは客にいきなり切り掛かるわけ?」
「何しに来やがった!」

尚も刀を構え怒鳴るオレに、野郎はドカリと畳に座った。

「まあそう熱くなりなさんな。女に振られて泣いている副長さんに大切な話があってきたんだよ」
「泣いてねーよ‼︎ しかもテメーの所為だろうが‼︎」

今すぐ斬り殺してやりたいが、大切な話という言葉に思い留まる。

「まぁ、座れよ」

ポンポンと畳を叩く万事屋。
ここはオレの部屋だ!

仕方なく刀を鞘に収めると万事屋の前に胡座を掻く。そして部屋の前でハラハラと見守る隊士を下がらせた。

「昨夜のゆきが言ってたオレと付き合う云々の話、あれ、ウソだから」

万事屋が死んだ魚のような目でさらりと言う。

「 …… 」
「 …… 」
「はぁぁぁ⁉︎」

オレは思わず立ち上がり、万事屋の胸倉を掴み締め上げた。

「どういう事だ!!」
「ちょ、だから落ち着けって!」

目を白黒させながら万事屋はオレを宥める。

「昨日の昼前に定食屋に行った時にゆきに依頼されたんだよ。おまえと別れたいから、恋人の振りをしてくれって」
「っ!!!」

万事屋に恋人の振りを依頼する程、オレとの付き合いが嫌だったのか!

ショックで万事屋を掴む手がポトリと落ちた。しかし野郎はそんなオレには構わず話を続ける。

「でもさぁ、おかしいんだよ。昨夜おまえに別れを告げる時も、立ち去るおまえを見送る時も、なんかこう、違うっていうか…」
「あぁ? 意味わかんねーよ…」

もういいよ。これ以上真実を知りたくねぇ。
オレはゆきに嫌われていたんだ…。
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