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十四郎の恋愛白書 1

第17章 No.17


ゆき、なんでそんな泣きそうな顔するんだよ。

ゆきの悲しみの理由が分からず、オレは必死に言葉を続けようとする。

「あ〜…、おまえなら大丈夫だ。きっとその男に振り向いてもらえるさ」

そうだ。これからは良き理解者、相談相手としてゆきの傍にいればいい。兄として、友人の1人として。そうすればいつかはこの胸の痛みも消えて行く筈だ。

「お、おい、泣くな。どうしたんだよ」

遂にゆきは黒真珠のような瞳からポロポロ涙を落とした。
はっ、まさか!

「ま、まさか、もうその男にフラれたとか⁉︎ おまえみたいないい女をフるなんて最低野郎だな‼︎ よし、オレが退院したら、そいつに話つけに…!」
「トシさんには、もう、私は必要ありませんか?」

被せるように聞かれた問い掛けは、思いもよらない言葉で。

……え?

「もう、…ここに、来たら、…迷惑、ですか?」

泣きじゃくるゆきに、オレは意味が分からず唖然とする。

「…い、いや、迷惑とかじゃなくて…、その…オレはおまえが来てくれたら嬉しいんだけど、でも…」
「…でも?」
「…万事屋から聞いたんだ。おまえに好きな男がいるらしいって」
「……」
「それで、オレはおまえに幸せになって欲しいから、おまえが選んだなら、その男との仲を応援しようかと…」

未だ泣き止まないゆきにオロオロする。いつも笑みを絶やさないゆきの涙を見たのは初めてだ。

……いや……前に見た事がある気がする。
いつだ?
あれは……、そうだ。夢の中でゆきが泣いていた。毒にやられて危篤状態の時、ゆきを追いかける夢を見た。その時、一度消えたゆきはオレの元に戻ってきてくれて、オレの手を握りながら泣いていた…。
そしてオレに「ずっと傍に…」

「『ずっと傍にいます』と約束しました」
「 ‼︎ 」

オレが思い浮かべた言葉をズバリ言ったゆきに驚く。

「私、その人に、そう約束したんです」

ゆきは涙を拭うと、愛しい人を思い浮かべるように柔らかく微笑む。

「その人はとても強くて、凛々しくて。でも儚くて、もろい人なんです」

オレを真っ直ぐに見る瞳から目が離せない。潤んだ瞳はキラキラと星が瞬いているようだった。

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