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十四郎の恋愛白書 1

第17章 No.17



優しく、義理堅い女だと思う。
自分の事を兄のように思ってくれていたとしても、所詮は他人だ。それなのに、仕事を休んで付きっ切りで看病して、回復しつつある今も毎日病院に来てくれる。

再び燃え上がってしまったゆきへの想いを必死に打ち消そうとするが、ゆきの笑顔を見る度にその想いは益々強くなっていた。

オレの着替えを手伝ってくれたり、洗濯をしてきてくれたり、優しく頭を撫ででくれたり…。
オレはゆきにとって兄弟のようなものなのだ、そこに特別な感情はないのだと自分に言い聞かせる。
ゆきにはもう他に好きな男がいるんだ。
…切なさで胸が苦しかった。




「明後日、退院できるそうですよ」

花瓶の水を入れ替えながら「良かったですね」とにこやかにゆきが笑う。

「…あぁ」

入院から2週間、やっと退院の目処が付いた。
きっと屯所の自分の机には、気絶する程大量の書類が溜まっているのだろう。
しかし、退院したらもうゆきはオレのところに来てくれない。
そう思うと、この腹の傷をもう一度自分で抉ってやろうかという気さえ起きてくる。

俯くオレに、ゆきが不思議そうに覗き込んできた。

「どうかしました?」
「…いや、なんでもねぇ。今まで悪かったな」

胸の奥から込み上げる切なさを無理矢理抑え込む。
突然謝ったオレにゆきはキョトンとした。

「毎日病院に来ていた所為で、おまえの自由な時間を潰しちまった。もうオレの事は大丈夫だから。これ以上オレに構ってたら、好きな男に誤解されちまうぞ」

違う。本当はずっと傍にいて欲しい。他の男の所になんて、行かせたくない。
しかし、口から出たのは反対の言葉。自分で自分を追い詰める。ゆきの方から「もう来ません」と言われるのが恐かった。

「好きな男の人、ですか?」

ゆきが驚いたように目を見開く。

「あぁ。…毎日、見舞いに来てくれて嬉しかった。ありがとうな。でも明後日退院だし、もう来てくれなくても大丈夫だから。これからは、おまえの好きな男のところに通え」

精一杯笑ったつもりだ。

「退院したらまた、たまに店に行くよ。そん時は美味い土方スペシャル食わせてくれよな」

「トシさん…」

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