第16章 No.16
万事屋はオレの寝間着の胸元を広げ、包帯越しに腹にキスした。
「ひっ! よ、万事屋!正気に戻れ!」
叫びも虚しく、万事屋の舌がオレの首筋を舐め上げチクリと吸い上げる。
寝間着の裾から無骨な手が進入してきて身体を弄り始めた。
服越しに擦り付けられる万事屋の昂りに、「もはやこれまでか!」とギュッと目を瞑る。
「たあ‼︎」
ドカッ‼︎
ドサッ。
万事屋が、堕ちた。
「 ⁉︎‼︎ 」
一瞬何が起こったのか訳が分からなかった。
オレの上で気絶する万事屋越しに見上げると、
ゆきが、いた。
「トシさん!大丈夫ですか⁉︎」
ゆきは手に持っていた竹刀を放り投げると、呆然とするオレの上から万事屋を転がして退けた。
「ゆき…⁉︎ どうして⁉︎」
「総悟くんから連絡があって!急いで駆けつけました!」
起き上がろうとするオレの背を慌ててゆきが支えてくれる。
「トシさん!血が!出血してます!」
暴れたため腹に巻いた包帯からは血が流れ出ていた。思い出したかのように訪れた激痛に顔を歪める。
「救急車呼びますね!」
焦って立ち上がろうとしたゆきの腕を掴んで引き止めた。
「トシさん?」
振り返ったゆきの腕を引き寄せて、抱き締めた。
腕の中の華奢な身体に、消せなかった愛しさが膨れ上がる。
「……たかった。」
「え?」
呟いたオレに、ゆきが聞き返す。
「会いたかった…!ずっと、会いたかった!ゆき…!」
魂が叫んでいるようだった。
「…トシさん…」
ゆきもそっとオレの背に手を廻してくれた。
オレの背を撫でるその手の暖かさに、身体中を渦巻いていた恐怖と緊張感が吸い込まれて消えて行く。
まるで迷い子が母親に縋るかのようなオレを、ゆきは強く優しく抱き締め返してくれた。
安堵がオレの体を支配し、フワリと意識が遠退いて行く。
「…もう大丈夫です。ずっと、私があなたを護りますから…」
薄れて行く意識の中で、柔らかなゆきの声がオレを包み込んだ。