第16章 No.16
「よ、万事屋!待て!」
再三にわたるストップに、万事屋は眉を顰めてオレを見た。
「万事屋、わかったから!おまえの気持ちはわかった!」
この手だけは使いたくなかったが、仕方ねぇ。
オレからの肯定の言葉に万事屋は嬉しそうに頬を緩ませる。
「やっとオレの気持ちが伝わったか」
そんな万事屋にオレは息を整えると一転、恥ずかしそうに俯きながら告げた。
「万事屋…、いや、銀時…、実はオレも前からおまえのこと、…好きだったんだ…」
既に鳥肌は限界に達していたが、真選組副長の名にかけて我慢する。
「十四郎…!」
万事屋が顔を輝かせた。
オレは精一杯目を潤ませて上目遣いで万事屋を見る。
「でも、今は本当に身体が辛ぇ。だからオレの身体が回復してから、…抱いてくれねぇか…?」
「十四郎‼︎」
万事屋が感極まったようにオレを抱き締める。
纏っていた闘気が一気に霧散した。
見たか!幕府の狸爺い共を眩惑させたオレの演技力!
オレは袂からそっと注射器を取り出すと、目の前にある隙だらけの万事屋の首筋にプスリ、と突き刺した。
幻覚剤だ。
「 ‼︎ 」
万事屋が目を見開く。
第三作戦『色仕掛け』…… 成功!
これで終わりだ‼︎
ニヤリと笑うオレに、万事屋はしかし、ゆっくりと身体を離した。
「十四郎…、何?これ」
オレを見下ろす万事屋に、次はオレが目を見開く番だった。
幻覚剤が効かない⁉︎
「な、なんで…?」
絶句するオレの手から注射器を取り上げると、万事屋はポイ、と放り投げた。注射器がカシャンと音を立てて割れる。
途端に万事屋はオレの顎をグイと持ち上げ、深く口付けてきた。
「っ! んんっ!」
死に物狂いで暴れるが、ガッチリとホールドされビクともしない。
舌を絡められ、以前小雪の姿で総悟にキスされた記憶が蘇る。
ガリッ!
思い切り舌を噛んでやった。
「っ!」
しかし万事屋はオレから顔を離すが身体は離さない。
そして、唇の血をペロリと舐めながら妖艶に笑った。
「十四郎は悪い子だなぁ。こりゃお仕置きだな」
瞬間に天井が見えた。
万事屋に押し倒されたのだ。
「や、やめろ!離せっ!」
なんとか逃げだそうとするが、両手足を押さえ付けられて身動きが取れない。
「十四郎、腹から血が出てる。もう動くな」