第16章 No.16
今まで数多の死線を潜り抜け、そんな危機に面したことは幾度もあった。しかし今ほど身体が震えたことはなかった。
すぐ傍まで迫った万事屋。オレの頬にそっと手が充てられる。
身を切るような威圧感に動くことができない。
「可哀想に、こんなに震えて…。もう大丈夫だ。オレが来たから」
愛しげにオレを見る紅い瞳。
いや、テメェの所為だから!
離れてくれれば震えも止まるから!
ほんと、オレを鳥肌で殺す気か!
万事屋の目に浮かぶ情欲の色が、更に身体を震わせる。
考えろ!十四郎!何か策を考えるんだ!オレは真選組の頭脳とまで言われてるんだ!何か、何か……!
「万事屋!待て!落ち着け!おまえは今、総悟の仕込んだ惚れ薬で惑わされているだけなんだ!」
万事屋の体を必死で押し返す。
野郎はオレの頬を切なそうに撫でた。
「惚れ薬の所為なんかじゃねぇ。オレは昨日、病室でジュースを飲んだ瞬間からおまえの虜なんだ。もうおまえ無しでは生きられない」
だから!それが惚れ薬の所為なんだよ‼︎ どう考えてもおかしいだろ!
「オ、オレとおまえは犬猿の仲だったはずだ!それに男同士だ!おまえは男色家じゃねぇだろ!絶対後で後悔するぞ!」
オレの言葉に万事屋は目をパチリと開くと、優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。オレ、男との経験がないわけでもねぇから」
あんのかよ‼︎
第一作戦 『説得』…… 失敗。
オレの顎をクイと引き上げた万事屋に「ひぃ!」と慌ててその顔を押し返す。
「ま、待て!オレは今重体なんだ!毒にやられて、腹の怪我もまだ治ってねぇ!」
万事屋の目に心配気な色が宿る。
よし、この手ならいけるか?!
「腹の痛みが酷い!だから…!」
「大丈夫だ。おまえの身体の負担にならねぇようにするから」
そういう問題じゃねー‼︎
「ね、熱が酷いんだ!高熱があるんだ!身体が思うように動かせねぇんだ!」
必死なオレを万事屋はそっと抱き締めた。
「おまえは何もしなくてもいい。全部オレがやるから。それに沢山汗をかかせてやる。汗をかけば熱も下がるさ」
「……‼︎‼︎」
第二作戦『体調不良』…… 失敗。