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十四郎の恋愛白書 1

第16章 No.16


深夜、空に高く三日月が昇った頃。
真選組屯所内はかつてない厳戒態勢が敷かれていた。

隊士達は完全武装し、屯所内の至る所に配置されている。ギラギラと殺気立つ彼等の顔には戦場に赴くかのような緊張感が漲っていた。


今夜は、伝説の攘夷志士、白夜叉が攻めてくるのだ。






「トシ、具合はどうだ?」

大広間の襖を開けて近藤さんが入ってきた。

オレは今、大広間の中央に敷かれた布団に寝かされている。周囲には、1番隊から10番隊までの隊長達がグルッとオレを囲んでいた。

「すまねぇ、近藤さん。迷惑かける」

未だ体に残る毒で起き上がることもできない。なんとか顔だけを近藤さんに向けた。
当たり前だ。昨日まで危篤状態だったのだ。それを無理矢理退院してきた。
病院から薬や点滴を処方してもらってきたが、この物々しい雰囲気の中では、回復する筈もなく悪化するばかりだ。

「はぁ、はぁ、、」

息が苦しい。体が熱い。
腹の傷はもう1週間も経つのに未だ出血していた。毒の特徴なのだろう。

近藤さんがオレの額に浮かぶ玉の汗を拭ってくれた。ヒヤリとした手拭いが気持ちいい。

「万事屋の野郎は必ず止める。だから安心して休め」

頼もしく微笑む近藤さんに少し気が緩む。目を細めて頷いた。

「総悟、おまえも気張れよ」

総悟は近藤さんの声に振り向くが、

…なんでほっぺたに生クリーム付いてんの?

どこから入手したのか諸悪の根源は大きなホールケーキをもしゃもしゃ食っていた。

「当たり前でさぁ。旦那とやり合えるなんて滅多にねぇですからねぃ」

ギラリと目を鋭くするが、リスの様に膨らんだ頬では迫力はゼロだ。
決戦の前だというのにこいつのこの緊張感の無さ。そしてそれを全く気にも留めない隊長達。

…不安感満載だ。
オレの貞操は本当に大丈夫なんだろうか…。



その時、


ドォン‼︎‼︎
轟音が響いた。

「来たな」

近藤さんをはじめ隊長達が立ち上がり、スラリと抜刀する。
総悟もフォークを置いて立ち上がった。
しかし、

「オボロロロー」

突如総悟が吐いた。

「ぎゃ!きたね!」
「何やってんだ!」

飛び退く隊長達。総悟は真っ青な顔で蹲る。

「総悟⁉︎どうしたんだ⁉︎」

近藤さんが驚いて問い掛けるが総悟はフルフルと頭を振るだけだ。
そして

ぎゅるるるるる!

総悟の腹が盛大に鳴った。
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