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十四郎の恋愛白書 1

第16章 No.16


「おまえ!まだそんな事言ってんのか!いい加減諦めろ!ゆきにはもう他に好きな男がいるんだ!」

そう怒鳴ると、総悟はカラン、とペットボトルをゴミ箱に投げ入れオレを見返した。

「土方さんは知らねえでしょうが、ゆきさん、ずっと病室に通ってくれてるんです。あんたが危篤の間は、仕事も休んで付きっ切りだったんですぜ」
「 ‼︎ 」

思わぬ事実に驚く。

「そのゆきさんが好きな男ってぇのは、土方さん、あんたじゃねぇんですかぃ?」

総悟の紅い瞳に、言葉に、息を呑んだ。

そうだったならどんなに…。

「いや、そんな筈はねぇ。オレはゆきにとっては兄みたいな存在になっちまってるんだ。」

力の入らない手でシーツを握り締める。

「それに万事屋の話によると、ゆきが好きな野郎は、ゆきが護ってあげないとダメなくらい弱ぇヤツらしい」

オレの言葉に総悟はフイと横を向くと床に転がる万事屋の前にしゃがんだ。

「オレはゆきさんに真選組にいて欲しい。ゆきさんがいる真選組の空気が好きなんでさぁ」

総悟はポケットから手錠を二本出すと万事屋の右手と左足を繋げ、更に左手と右足を繋げる。両手足が体の前で交差した状態だ。

「その為なら…」

総悟が立ち上がり、鋭くオレを見据えた。

「お、おい、何を…」

思わず後ずさろうとしたが、ベッドの上だ。身動きは取れない。
不穏な雰囲気に慄くオレの布団を、総悟は勢い良くめくった。

「!」

しかし身を固くするオレを、よいしょ、と背負ったではないか。

「は⁉︎ 総悟⁉︎」

驚くオレを他所に、総悟はスタスタと病室を出る。

「逃げやすぜ、土方さん。ここにいたら危ねぇ。命の危機は去っても、貞操の危機が迫ってまさぁ」

「どういうことだ⁉︎」

廊下を歩く医師や看護師が慌てて引き止めて来るが、総悟は無視して進む。

「さっきの万事屋の旦那を見た限り、かなり強力な惚れ薬だったみたいでさぁ。媚薬も混じってるのかもしれねぇ。このままじゃあ、土方さんが旦那に掘られやす」

「 ‼︎ 」

さっきの万事屋を思い出してゾッとした。

「ゆきさんが土方さんを好きになっても、土方さんが使い物にならなきゃ意味ねぇですからねぃ」

恐ろしいことを言いながら総悟は階段を駆け降りた。
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