桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第11章 B
空になったペットボトルをゴミ箱に放り込むと、潤が翔さん達が座るベンチの方に視線を向けた。
そしてフッと息を吐くと、長い睫毛に縁取られた瞼を伏せた。
「翔さんさ、大野先輩に一度だけ電話したらしいんだ。…勿論、ああなる前だけどな? 待てど暮らせど帰って来ない大野先輩に、業を煮やした、っつーかさ…。で、そん時に大野先輩口滑らして、お父さんと交わした条件、話しちまったらしいんだ…」
そんなことが…
きっと翔さんは、ずっと待ってたんだ…
大野先輩の帰りを…
自分の親が、裏で画策してたなんて知らずに…
「その後かな…。翔さんの様子がおかしくなって、会社もクビになって…。で、ホームレスになった所を、お前が拾った、ってわけだ」
確か、井ノ原先生が言ってたことがある。
老人性の認知症と違って、若年性の場合は、酷いショックを受けたことが原因で、発症する可能性がある、って…
だとしたら、あまりにも悲しすぎるじゃないか…
いつしか子供たちに混じってキャッチボールを始めた翔さん…
その無邪気な笑顔に、胸が締め付けられる。
「辛いな…」
潤がタバコを一本咥え、そこに火を付けると、煙を吐き出しながらポツリ呟いた。
俺はそれに言葉を返すことなく、自然に溢れ出た涙を、ジャンパーの袖で乱暴に拭った。