桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第11章 B
ニノ達と公園で別れ、まだ帰りたくないと愚図る翔さんの手を引いてアパートに帰った。
洗面所で並んで手を洗い、ポケットに入れたままだったカフェオレを二つのマグに別けた。
翔さんはソレを、美味しそうに飲み干すと、久しぶりの外出に疲れたのか、ウトウトし始めた。
「疲れたでしょ? 少し休んだら?」
「…うん…」
こういう時の翔さんは、とても従順で、すんなりベッドに潜ると、すぐに寝息を立て始めた。
楽しそうだったもんな、翔さん…
あんな顔、久しぶりに見たかもしんない。
翔さんが完全に寝入ったのを確認して、俺は潤が持ってきたパンフレットの束をテーブルに広げた。
いずれは…
そう、いずれは考えなきゃいけないことなのかもしれない。
でも今はまだ…
俺はその中から一つのパンフレットを手に取ると、パラパラと捲り始めた。
共同生活を通して、認知症患者の自立や、生活支援が目的の、”グループホーム”と呼ばれる介護施設。
そこには、助け合いながら料理を作ったり、簡単なゲームをしたり…楽し気な写真が何枚も掲示されていた。
でも俺は、深く目を通すことなくパンフレットを閉じた。
翔さんは、施設を利用する資格がないから…
施設を利用するには、”介護保険”が必要になる。
でもそれは、40歳以上が条件で…
まだ20代の翔さんには、介護保険を受ける資格がないからだ。