桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第10章 I.
「ちょっと待ってて?」
翔さんにシートベルトをかけ、俺はドアを閉めてから、途中で息を切らして立ち止まってしまったお手伝いさんの元へと駆け寄った。
「何か…」
「あ、あのこれを…」
ハアハアと肩で息をしながら、お手伝いさんが俺に向かって封筒を差し出してきた。
お手伝いさんの手から受け取ったそれは、触れた瞬間からけっこうな厚みがあって…
「これは…?」
俺は未だ息の整わないお手伝いさんの返事を待つことなく、封筒の封を開けた。
中には一万円札が数枚と、通帳、それにカードのような物が入っていた。
通帳の名義は翔さんの名前になっている。
「奥様が、坊ちゃんのためにと…」
「翔さんのため…?」
「坊ちゃんの治療のためにお使い下さいと、奥様が…」
漸く呼吸が落ち着いてきたのか、お手伝いさんが俺の背後にある和の車に目を向けた。
そして皺を刻んだ両手で俺の両手を包み込むと、そこに額を擦り付けるように、深々と頭を下げた。
その肩が少しだけ震えている。
「どうか…、どうか坊ちゃんをよろしくお願いします」
弱々しいけど、でもはっきりとした口調だった。
「分かりました。それにコレ、ありがとうございます。助かります」
俺は握り込まれた手を一つ抜き取ると、お手伝いさんの手の上に重ねた。