桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第10章 I.
「ごめんな、ニノ。お前に迷惑かけちゃうかも」
階段を降りながら、ニノに向かって言う。
勢いとはいえ、”翔さんのことは俺に任せろ”的なことを言ってしまった以上、ニノの協力は絶対に欠かせないわけで…
「構いませんよ? 乗り掛かった舟ですから」
お前のそんな優しさに、また俺は甘えてしまうんだ。
「それよりさ、何か食べて帰りません? 俺、腹減っちゃったよ」
「そうだね。そうしようか」
他愛もない会話を交わしながら階段を降り、誰一人見送ってくれることのない玄関を出た。
「ん…、ここ、は…?」
突然吹き付けた冷たい風に、俺の腕の中で翔さんが目を覚ました。
その顔には、もうさっきまでの怯えも何もなく、穏やかな笑顔が浮かんでいて…
きっと自分の身に起こったことなど、忘れているんだろうなと思った。
「家、帰りましょうね?」
俺が言うと、翔さんが小さく頷いて、俺の首に腕を巻き付けてきた。
そのまま俺達は門を抜け、駐車場に停めた車へと向かった。
一刻も早く、この何の温もりも感じられない空間から抜け出したかった。
「お待ちください」
ニノがドアを開けてくれて、後部座先に翔さんを降ろし、乗り込もうとした時、こちらに向かってお手伝いさんがパタパタと速足で駆けてきた。