桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第2章 A
自分があの人に抱えてる感情が、“恋心”だと気付いた瞬間から、俺の視線は常にあの人を追いかけた。
別にストーカー、ってわけじゃない。
ただあの人に少しでも近づきたい。
あの人のことがもっと知りたい。
欲求だけがどんどん溢れて行った。
決して叶わぬ恋だと知りながら、ね…
あの人の恋人は、三年生の美術部の部長をしていた。
いつも背中を丸め、眠そうな顔をした人。
でも笑顔のとても可愛い人だった。
全てを包み込んでしまうような、慈愛に満ちた微笑みは、あの人じゃなくても惚れるだろう。
実際、彼の…大野先輩のファンクラブなる組織が水面下で存在するらしいことを、俺も小耳に挟んだことがある。
大野先輩と一緒にいる時の、あの人の顔は、俺が知っているあの人の顔とは全く別人のようだった。
優等生の仮面は見事に剥がれ落ち、少し細めた目に浮かぶのは、明らかな恋色。
誰に見せるわけでもなく、大野先輩ただ一人に見せる表情(かお)。
大野先輩は、あの人の中で“特別”な存在だった。
俺はあの人の“特別”を独り占めする大野先輩を、心のどこかで羨んでいた。
俺だってあの人のことが好きだったから…
あの人の“特別”に俺もなりたい…ずっとそう思っていた。