桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第10章 I.
足早に先頭を行くお手伝いさんの後に続いて玄関に向かう。
丁度階段の上がり端に着いた時、翔さんのお母さんが、小さく叫んで口を両手で塞いだ。
そしてオロオロとその場を行ったり来たり…
時折、階段の下で蹲り涙を流す翔さんを見ては、悲しげに目を伏せた。
「そんな目で俺を見るな!」
翔さんの叫び声が、広い玄関ホールに響いた。
その声は、悲痛そのもので…
まるで恐怖から逃れるように後ずさる姿を、俺は何も出来ないまま、ただ呆然と見ていた。
「見ないで下さい…。お願いだから…見ないで…」
膝に顔を埋め、肩を揺らす翔さんが余りにも憐れで…
それと同時に、自分の無力さが、情けなくなってくる。
こんなにも“助けて”って心が叫んでるのに、俺は何を迷ってるんだ…。
迷う理由なんて、ないのに…
俺はゆっくり足を進め、その揺れる肩を抱きしめた。
「翔さん、大丈夫だから、ね? 落ち着いて?」
怖がらせないように、そっと囁くように、その耳に声をかける。
翔さんが俺の声に、涙でグチャグチャになった顔を上げる。
そして俺の襟元を掴むと、俺の身体を乱暴に揺さぶった。
「雅…紀…? 雅…、俺どうしちゃったの? なぁ、俺…俺っ…」
ああ…、今の翔さんは、俺の知ってる翔さんなんだ…
そう思ったら、不謹慎だけど、少しだけ嬉しかった。