桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第10章 I.
翔さんが正常な状態でないことは、その様子からも見て取れた。
それでも俺は翔さんには聞かせたくなかった。
たとえ正常でないとしても、現実を受け入れるのは、酷だと思ったから…
だから俺は翔さんに席を外して貰うように頼んだ。
そんな俺の気持ちを察したのか、ニノが翔さんの手を引いた。
その手を解き、翔さんはトイレへ行くと言って席を立った。
「大丈夫」
翔さんのその言葉と笑顔に俺も、そしてニノも不安を感じながらも、どこかで安心していたのかもしれない。
翔さんのいなくなったリビングに、酷く重苦しい空気が流れた。
どう切り出したらいい…?
俺の頭の中は、そのことでいっぱいだった。
「ねぇ、遅くない?」
ニノが俺の脇を肘で突っつきながら、耳打ちをする。
「確かにな…」
部屋の片隅に置かれたアンティークの時計を見ると、翔さんが席を外してから、十分以上が経っていた。
「見てきた方がいいかな?」
俺の隣でニノが腰を少し浮かせた瞬間、ノックもなしに、リビングの扉が開き、お手伝いの女性が飛び込んできた。
しまった!
そう思った時にはもう遅かった。
「奥様、坊ちゃんが…、坊ちゃんが…」
瞬間、俺もニノもほぼ同時に天を仰いだ。