桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第9章 A..
「わ、分かった。俺の部屋へ…。でも、その前にトイレに…」
俺の手を握った手をそっと外し、俺はソファーから腰を上げた。
「一人で大丈夫ですか?」
不安げな目が俺を見上げる。
「だ、大丈夫だよ。ここ、俺ん家だし」
安心させようと、平静を装って見せるけど、内心では不安ばかりが募って行く。
「待ってますね?」
色白な顔が、少しだけ綻ぶのを見届けて、俺は煙の充満した部屋を飛び出した。
豪華な装飾と、白一色に彩られた廊下に出ると、俺は手当たり次第にドアを開けて回った。
違う…、ここじゃない…
ここでもない…
どこだ…
ここは本当に俺が生まれ育った家なのか?
それすらも分からない…
気付けば俺は二階へと続くであろう階段の下に、呆然と立ち尽くしていた。
「坊ちゃん…? そんな所で…、まぁ!」
その声に、俺は一気に我に返る。
「どうしましょう…、奥様…!」
声の主は、俺を見るなり、慌てた様子で廊下の奥へと消えて行った。
一体何が…
「えっ…? 嘘、だろ…?」
下半身に感じた熱い感触に気付いた瞬間、俺は崩れるようにその場にへたり込んだ。
知らず知らず涙が溢れては俺の頬を濡らしていくけど、それを止める術さえ、俺には分からなかった。