桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第9章 A..
「私の顔に泥を縫っておいて、よくもノコノコと帰って来れたもんだ…」
“父親”だと言ったその人は、俺と視線を合わせることもなく、細かい細工の施された銀メッキのケースから、葉巻を一本取り出し、そこに火を付けた。
独特な煙の臭いに、頭が痛くなる。
早くこの場から…この居心地の悪い空間から逃げ出したい。
「あなた、そんな言い方なさらなくても…。翔だって、きっと何か考えがあってしたことでしょうから…。ね、翔? お父さんにちゃんと説明なさい?」
何を?
俺は一体何をした?
それすらも分からないのに、何をどう説明すればいい?
頭がまるで割れるように痛い…
どうしたらこの状況を切り抜けられる?
どうしたら…
「あの…、ちょっといいですか?」
堪りかねたように、俺の隣に座った男が口を開いた。
助かった…
そう思った瞬間、全身を襲っていた震えが、嘘のように消えた。
男は姿勢を正すと、”お父さん”に向かって少しだけ身を乗り出した。
「実は、そのことで今日伺ったんです。あの…、翔さんには席を外して貰っていいですか?」
「翔がいては出来ないお話なの?」
「…はい」
もう一人の色白の男が席を立ち、俺の手を引いた。
「翔さん? 俺、翔さんの部屋見たいな?」
俺の…部屋…?
そんな物がこの家の中にあるんだろうか?
内心訝しみながらも、それでも俺はその誘いを受けることにした。
この空間から抜け出せるなら、理由なんてどうでもよかった。