桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第9章 A..
どこを見回してみても、そこは俺の知らない世界で…
「翔、久しぶりね? 元気にしてた?」
俺の頬を撫でる手だって、誰の物なのかも分からない。
ただ一つ分かるのは、この人は俺を知っている、それだけだった。
その人は俺の手を取ると、革張りのソファーへと促した。
勿論俺だけじゃない、俺と一緒に来た、らしい男も一緒にだ。
三人並んでソファーに座る。
すると目の前で新聞を捲っていた男性が、ゴホンと大袈裟に咳払いをした。
新聞を畳み、テーブルの上にポンと放ると、かけていた銀縁の眼鏡を外し、その上に置いた。
「ほら、翔、お父さんにご挨拶なさい?」
”お父さん”?
この人が、俺の”父親”?
「あ、あの…えっと、その…」
後に続く言葉が出てこないのは、緊張しているからなんだ…そう思っていた。
でも、いくら頭を巡らせてみても、一向に出て来る気配のない言葉に、焦れた苛立ちが込み上げてくる。
「翔さん…?」
隣りに座った男が、俺の顔を覗き込む。
その目が、
“大丈夫だから、落ち着いて”
そう俺に向かって言っているようで…
俺は顔を上げると、スッと深呼吸をした。
そして、
「お久しぶり…です…、お父…さん…」
咄嗟に思いついた言葉を、そのまま口にした。