桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第8章 SAKURAI
「着きましたよ」
ニノの声に、それまで俯かせていた顔を車窓に向けた。
そこは閑静な住宅街で、中でも一際大きな家の前だった。
どっしりとした門構えの横には”櫻井”の表札。
一度だけ自転車で通り過ぎたことがある。
もしかしたら翔さんにバッタリ会えるかもしれない、そんな淡い期待を胸に抱いて…
俺は先に車を降りると、翔さん側のドアを開けた。
「降りれます?」
そう言って手を差し出せば、
「あぁ、うん…」
小さく頷いて、翔さんが俺の手を取った。
覚えていない…
そう思っていた。
それなのに翔さんは一度も立ち止まることなく、門を抜け、玄関へと続く階段を昇って行く。
俺はニノと顔を見合わせると、その後に続いて階段を上った。
翔さんがインターホンのボタンを押す。
俺達はその姿を、少し離れた場所で見守っていた。
『どちら様…。今開けますね』
恐らく中でモニターを確認しているんだろう、驚いたような声。
そして電子ロックが解除される音がした。
ロックが解除された門を開き、翔さんがその奥へと足を踏み入れる。
ゆっくりと、足元を確かめる世に、一歩一歩足を進める翔さん。
実家だもんね、覚えてるよね…
俺も、そしてニノもそう思って疑わなかった。