桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第8章 SAKURAI
暫く進むと、漸く見えて来た玄関から、エプロン姿の女性が、こちらに向かって小走りで走って来るのが見えた。
そして翔さんの前で立ち止まると、皺をたっぷりと蓄えた顔を綻ばせた。
「お帰りなさいませ。お元気そうで…」
すぐ傍にいる俺達に目をくれることもなく、女性は翔さんの手を握った。
翔さんの家には、お手伝いさんがいる、と噂で聞いたことがある。
きっとこの人がそうなんだろう…
それなのに翔さんの口から零れた言葉は、
「ただいま、お母さん。お母さんこそ、元気にしてた?」
瞬間、俺は天を仰いだ。
やっぱり何も覚えちゃいなかったんだ。
その証拠に、女性の顔からはそれまで浮かんでいた笑顔はすっかり消え失せ、代わりに眉間に寄せた深い皺に戸惑いの色が浮かんでいる。
「な、何を仰ってるんですか? やですよ、年寄りを揶揄って…」
おどけた口調だけど、その声はやっぱり困惑を隠し切れていなくて、
「あ、あの…」
俺は思わず女性に向かって声をかけた。
「あの、俺、相葉雅紀って言います。コイツは二宮和也。俺達、実は翔さんの高校の後輩で…」
「そう、でしたか…」
「あの、実は…」
そこまで言って、俺は途端に口籠ってしまう。
どう説明したらいい?