桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第7章 I
「懐かしいな…」
時と共に薄れてしまった記憶が、少しづつ蘇ってくる。
でもそれはとても鮮明と言えるような物ではなくて、やはりどこか霞がかかっている。
それでも思い出されるのは、“彼”と過ごした、幸せに満ち溢れた時間ばかり。
もう“彼”は俺の元を離れてしまったのに…。
「そろそろ帰ります?」
それまでスマホを弄っていた二宮が後部座席を振り返り、言う。
もう少しだけ…
あと少しでいいから、この郷愁に浸っていたい。
そう思っていた。
でもそれを伝える術が見付からなくて、俺はそれに黙って頷くことしか出来なかった。
「じゃあ、行きますか…」
二宮が車のエンジンをかけ、俺達を乗せた車がゆっくりと動き出す。
「あっ、そうだ…」
「どうしました?」
思い出したように声を上げた俺の顔を、雅紀が覗き込む。
「せっかくここまで来たんだから、実家に寄って貰っても構わないか?」
そう言えば、両親にも随分長い事会っていない。
「構いませんよ? 行きましょうか…」
すぐ先のコンビニに車を突っ込むと、今来た道を引き返して行く。
見覚えのある景色が、実家に近くなるに懐かしい景色に変わって行くのを、ぼんやりと眺めていた。