桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第7章 I
「着きましたよ?」
車が止まったのは、閑静な住宅街の、中でも一際大きな家の前だった。
ここが、俺の家…。
後部座席のドアが開けられ、雅紀が俺の手を引いた。
「降りれます?」
「あぁ、うん…」
雅紀に手を引かれながら、車を降りると、俺は何の躊躇いもなく玄関へと続く階段を上った。
身体はこの風景を忘れていなかった。
階段を登りきると、インターホンのボタンを押した。
『どちら様…。あら、今開けますね』
聞こえてきたのは、俺の知らない声。
スピーカーからの声がプツンと途切れると同時に、カチャンと門の電子ロックが解除された。
ロックの外された門を開き、その奥へと一歩足を踏み入れる。
そして両サイドを緑に囲まれた石敷きの上を、まるで雲の上を歩いているような、フワフワした感覚で歩を進めた。
生まれ育った筈の場所なのに、まるで知らない世界にいるような、そんな感覚だった。
漸く見えて来た玄関ドアが開き、エプロン姿の初老の情勢が、草履の踵をカラカラ鳴らしながら、駆け寄ってくる。
あの人は…誰だ?
「お帰りなさいませ。お元気そうで…」
あぁ、この人はそうだ…
「ただいま、お母さん」
そうだ、この人は俺を産んだ人だ。
「お母さんこそ、元気にしてた?」
俺が言うと、目の前の母さんの顔が、みるみるうちに曇って行った。