• テキストサイズ

桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】

第7章 I


「着きましたよ?」

車が止まったのは、閑静な住宅街の、中でも一際大きな家の前だった。

ここが、俺の家…。

後部座席のドアが開けられ、雅紀が俺の手を引いた。

「降りれます?」

「あぁ、うん…」

雅紀に手を引かれながら、車を降りると、俺は何の躊躇いもなく玄関へと続く階段を上った。

身体はこの風景を忘れていなかった。

階段を登りきると、インターホンのボタンを押した。

『どちら様…。あら、今開けますね』

聞こえてきたのは、俺の知らない声。

スピーカーからの声がプツンと途切れると同時に、カチャンと門の電子ロックが解除された。

ロックの外された門を開き、その奥へと一歩足を踏み入れる。

そして両サイドを緑に囲まれた石敷きの上を、まるで雲の上を歩いているような、フワフワした感覚で歩を進めた。

生まれ育った筈の場所なのに、まるで知らない世界にいるような、そんな感覚だった。

漸く見えて来た玄関ドアが開き、エプロン姿の初老の情勢が、草履の踵をカラカラ鳴らしながら、駆け寄ってくる。

あの人は…誰だ?

「お帰りなさいませ。お元気そうで…」

あぁ、この人はそうだ…

「ただいま、お母さん」

そうだ、この人は俺を産んだ人だ。

「お母さんこそ、元気にしてた?」

俺が言うと、目の前の母さんの顔が、みるみるうちに曇って行った。
/ 143ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp