桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第7章 I
「ごめん、ごめんね、翔さん! 俺が混乱させるようなこと言ったから…。ごめん…」
フーフーと肩で呼吸を繰り返す俺を、男の腕が胸に抱きとめた。
ドクンドクン…
埋めた男の胸から、鼓動が伝わってくる。
規則正しく打ち付ける鼓動のリズムが、俺の中のざわついた感情を宥めていくような、そんな気がして…
少しずつ冷静さを取り戻した俺は、自然と男の背中に両腕を回していた。
「怖いんだ…。怖くて怖くて、仕方がないんだ…」
自分が消えていくようで、怖くて仕方がないんだ…。
「大丈夫だから。俺が付いてるから」
俺を落ち着かせるための言葉と知りながらも、それに縋るしかない俺は、男の胸に顔を埋めたまま小さく頷いた。
「今日は中止にします? その調子じゃ、余計に混乱させるだけだろうし…」
運転席に座った男がゆっくりと振り返る。
瞬間、頭の中を真っ白に覆っていた霧がパッと晴て行く。
あれ?
この男、どこかで見たような…
「二…宮…?」
そうだ、確か雅紀と同じ学年の二宮だ。
だけどどうして二宮がここに?
それに、どうして俺は雅紀の腕に…?
「俺は一体何を…?」
雅紀の背中に回した腕を解きながら、辺りをグルリと見回す。
そこに広がっていたのは、とても懐かしい風景だった。